半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『リウーを待ちながら』『Final Phase』『ペスト』

オススメ度 80点
心の準備は出来ていますか?度 70点

『リウーを待ちながら』

リウーを待ちながら(1) (イブニングコミックス)

リウーを待ちながら(1) (イブニングコミックス)

国際化の中、本来土着の感染症ではないものがパンデミックとして街をおそう話。
古くは「アンドロメダ病原体」がはしりということになるのだろうか。既知の病原体でいえば『デカメロン』『ペスト』もまあそうか。

腺ペストと薬剤耐性のコンボで、致死率がほぼ100%であるという病原体に、地方都市が感染したらどうなるか…という
ディザスター小説。
一医師としてはもう恐怖しかない。

主人公の女医は、極めて有能な臨床家の女医。女医にありがちな仕事に埋没するステレオタイプ。対して学究肌のやや線の細い感染症の専門家。
その周辺の人々、社会状況が、淡々と惨劇を増しながら語られる。
アフガニスタンの腺ペスト+薬剤耐性の合わせ技で、致死率100%の凶悪な感染症。市の全面封鎖という策をとり全国・全世界的なパンデミックは避けられるものの、市内は封鎖され、日常は完全に停止し、甚大な被害に見舞われる。感染し、発症すれば、老若男所問わず死ぬしかない。
ある日なんでもない日常が断ち切られるという恐怖は伝染病に限らず普遍的なものだが、おそらく通底には3.11の大地震時代精神と共振しているのだろうと思った。

『Final Phase』

Final Phase (PHPコミックス)

Final Phase (PHPコミックス)

これは、前作というか、習作に近いもの。
主人公や登場人物の多くは重なり、プロッティングもほぼ同じだが、舞台は都市部の人工島だし病原菌も違う。
プロッティングは秀逸なので、1巻で終わるこの作品も悪くはないが、『リウー』が出てしまった今、習作と位置づけるしかないのが残念だ。
あと『リウーを待ちながら』は詩情もあり良いタイトルだよな……とこちらのタイトルを見て逆に思った。

『ペスト』カミュ

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

作中にでていたカミュのペストも読んでみた。
ペストに見舞われたフランスの街が舞台。医師リウーが主人公なのだが、19世紀か20世紀初頭の話で、街は完全に封鎖され、医療も満足ではない。閉鎖された街で、いつ死ぬかわからない市民の営み、人間模様を描く。
このあたり「リウー」のモチーフに、かなり重なる。
「ペスト」はカミュの代表作でもあるし、20世紀の文学の一つの達成点のはずだが、ざっと読んだ分には、あまり心には響いてこなかった。
20世紀前半の重苦しい時代と、今が違いすぎるのかもしれない。第二次世界大戦中の不条理な状況や、感染隔離された街で、閉塞した状況に置かれていたら、別の感慨も湧くはずだ。リウーは、医師として超人的な能力をもっているわけではなく、酷薄な状況をなすすべもなく、しかし淡々と受け入れている。


普段のうのうと生きている自分にとっては、自己を向き合い、自分の真価を問われるような、感染やパンデミックのような混沌とした状況には出会いたくはないものだ。
あと、災害ね。
もし自分が出会うとしたら、東京出張のときに地震にでくわすか、地元で南海トラフ地震に遭遇するか……ああいやだ。