半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

新世界

オススメ度 70点
職場の若いやつには逆にみせたくない度 80点

新世界

新世界

前作「革命のファンファーレ」に続いて、わかりやすく自分の立ち位置や考えていることを書き記した本。
多分、あまり本を読んだりしない人にもわかりやすいように、文字数は少なく、改行多めで、話し言葉で書かれている。

書かれていることにはあまり異論は感じない。

キングコング西野の頃の失敗譚や苦労譚は、いわゆる価値判断として西野氏がまっとうな感覚の持ち主であることを、間接的に示す目的で書かれているんでしょうね。

芸能界を外れて、知らない世界を切り開くことになった経緯とかは、非常にわかりやすい。
世間の常識にとらわれない新しい生き方を促進する。
お金から「信用」へ。店検索から人検索へ。モノが溢れている時代。
ストーリーを作ることの大切さなど、現代の錬金術師(あえて悪い言葉を選びました)の人達が提唱するコンセプトのまんなかへんに西野氏もいるわけで、この本も、若い人に対してアジテーション能力が高いなあと思いました。

少し異論があるのは、

  • Retrospectiveに整理された筋道を書くことって案外可能。その当時にはよくわからないまま直感でうごいていたことがそのあと「こういう意図でやっていたんだ俺は」と気づくことって僕にも結構ある(というか、その方が多い)。過去を総括すると「賢明に現在のありようを選んだ」という感じになる。これにはいささかのアンフェアさがついてまわることは言っておきたい。
  • この本は新しい道を切り開いた西野氏が、君たちも新しい道を切り開けばいいんだよ、というアジテーションになるわけですけれども、その道に続いても、先行者のポジションには西野さんもいるわけで、すでにフロンティアに人が住んでいる状態から始めなきゃいけないことは書かれていない。本では、「いくら踊るさんま御殿」でいい発言をしても、結局はさんまさんを富ませるだけである」とバラエティーでは先達を追い越せないということを書いていたけれど、この本に従って新しいことを始める若い人も、西野氏の影響下にあることに気づかなければいけない。
  • 結局これは世代交代の話になるのではないかということ。結局いつの時代も、西野氏くらいの年齢の少し上の人がティーンエイジャーを煽動し、もっと大きな既存の勢力を倒す、という構図。これは別に新しい話ではない。まあ今が新しい時代のかどぐちであることには異論はないが。

ただ、この本で述べていることって、既存の枠組みをこわして新しいことをやろうぜ!みたいなやつなので、職場の新人にみせるものとしてはあまり望ましくないよなあ。だってそうなると思慮の足りない人間こそが「会社やめる」という選択肢をとりがちだからだ。ネットビジネスにしたって、オンラインサロンにしたって、かなりの過当競争ではあるし、田舎のなんのスキルもない人間がそこに漕ぎ出して成功できるとは思えない。
もちろん、既存のレールが敷かれた人生が、この先何十年後も盤石である保証はない。でも、道ないところに道を作ることができる人間はいつも一握りである、という事実はもうちょっと強調されてもいいんじゃないかと思う。