松尾スズキ『この日本人に学びたい』

この日本人に学びたい (知恵の森文庫)

　単行本の時に面白そうだなと思っても結局スルーしてしまいすっかり忘れてしまった頃に「あっこれ文庫化されてんじゃんと今更ながら買うシリーズ。

　こんなタイトルだけどなんのことはない、松尾スズキによる人物評。
　自分のことを自分で語るよりも人のことを語らせた方が、その人のことがよくわかる。これは松尾氏による人物評でもあるが、同時に松尾氏のことをこれほど雄弁に物語っている本もあるまい。

　しかし「学ぶ」という言葉はうさんくさいよな。
　謙譲している姿勢をみせておいて中味はめった切り。大人の使う「勉強」にはそういう一筋縄ではいかない晦渋なところがある。「勉強させていただきます」という大人語は、とても老獪だ。（関西にはそのものずばり「勉強する」＝「(値段を)まける」という謂いがある。さすが関西。）

　ちなみに、「何となくクリスタル」形式に、下段には註がついており、この註は宮崎吐夢氏が書いているが、この註の切れ味がまたよい。これだけでも作品として成立しているようにも思える。取り分は幾らなんだろうか。