- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/04/25
- メディア: 文庫
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司馬氏がアメリカについて書いた随想というのは案外少なくて、『この国のかたち』に断片的に書かれている以外はあまり知らない。やはり司馬氏というと日本もしくは東洋の時代小説の人というイメージがある。
もちろん司馬氏に根強く人気な一連の紀行シリーズがあるのは知っている。だが、彼の書く紀行文の妙趣は基本的に「今」を「過去」から切り取るところで、つまりはそのおかしみは日本史の先生が地理を教えているようなところから発するのではないか。
日本史または東洋史の司馬先生がアメリカ地理について行う講義。
しかし、面白い。
紀行文とはいえ、決して書き流しの売文ではないのだ。
文章の三割を占めているのは以前(どうやら明治維新から日露戦争の辺りを書いていた時分のようだ)からずっとあたためていた主題である。
『文明』としてのアメリカと『文化』としての日本(およびその他すべての因襲的な国家)という二項対立。面白いので未読の方は読んでみればよいと思う。
おそらく司馬氏が旅行したのは、『ライジングサン』と日本の経済力がもてはやされる直前のやや不況にあえぐアメリカであると思われる。バブル経済で、日本が増上慢に振る舞った頃であればまた違った感想を抱いたのかも知れないなとは思った。