半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

"In Concert" Art Farmer/ Slide Hampton

イン・コンサート

イン・コンサート

いきなり、違和感のあるものを取り上げて恐縮です。別にネタに尽きたわけじゃないですけど。
この前、iTunesで自分のリスト内のものを乱れ聴きしていたら*1、ヒットした。
大学一年生くらいのときに愛聴していた、佳作でもなんでもないやつ。
なっつかしー。

Art Farmer、Slide Hampton。
ともにバップ派というか、自分の好みのスタイルの人たち。
特にミディアムとかスロウの曲で、構築的なソロ展開はとてもお手本になるヴァーチュオーゾです。

そんな人達が、なぜかこのライブでは、超速というか*2、まあまあのテンポで、しかも全曲スタンダードをやりまくる。Half Nelson, Darn that Dream, Barbados, I'll Remember Aprilとちょうどいい感じのスタンダードです。
大学1年のときには、Barbados (Fのブルース)とAprilしかわかんなかったな。

で、演奏内容なんですけど(笑)
多分、スライドハンプトンにこのCDを持っていったら、
「いや、ちょっと、やめてよー(笑)。
 他にもっといい作品あるでしょー?」
と笑っていうんじゃないかと思う。そういう一品。

スライドハンプトンたとえばI'll Remember Aprilとかは吹けていない部分もある。トロンボニストにとって「ちょっときついなー」というテンポ。

だけど、そういう、上手な人のライブでの不完全な演奏って、実はいろいろ勉強になる。乱れたところからの立て直しとか。フレーズも無理やりなんとか押し込んでいる感じとか、破綻する演奏から(ぎりぎり破綻してないですけど)見えてくるものは結構あるので。

ドイツかどっかでのライブ。リズムセクションは、
Bass – Ron McClure
Piano – Jim McNeely
Drums – Adam Nussbaum
お、結構いいじゃん。これも大学1年のときにはよくわからなかったけど、ヨーロッパジャズの、今では重鎮の人たちですよね。
フロントの人たちの大汗を横目に、汗一つかかず、クールに地獄に連れて行く……って感じの演奏です。

ちなみに僕がSlide Hamptonで一番好きなのは、David Hazeltineのアルバムでの客演ね。

4 Flights Up

4 Flights Up

  • アーティスト: David Hazeltine Quartet,David Hazeltine,Slide Hampton,Peter Washington,Killer Ray Appleton
  • 出版社/メーカー: Sharp Nine
  • 発売日: 2009/03/07
  • メディア: CD
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I should Careから始めるこのアルバム、何曲かコピーしました。
決して奇策に走らずフレーズを丁寧に重ねてゆく感じ、すごくお手本にしたい感じなんです。
他にもいい演奏は一杯あります。

*1:ちなみに私は古典的な音楽愛好者なので、基本的に音楽コンテンツはCDでもつようにしています。ストリーミングクソくらえです。iTunesには26000曲が収まっています。

*2:最近ではチョッパヤ!つーんすかね

Born to be Blue (ブルーに生まれついて)

amazon primeで観た。
 映画館でやっていたときにも、気にはなっていたが、2015年の私には映画館とは子供の機嫌をとりに妖怪ウォッチ*1アイカツを観に行く、ある種必要悪の場所だった。この時期映画館にわざわざ行きたいとは思わなかった。ま、今でも映画はいかない。二時間ぎっちり拘束される時間はなかなか捻出できないから。

 控えめに言っても、私はかなりチェット・ベイカーが好きな方だと思う。
 これを書くためにiTunesの中を調べてみるとChet Bakerのリーダーアルバムだけで21枚あった*2

 ソロのコピー(Transcribe)も10曲以上しているはずだ。だから僕のアドリブには軽妙なチェットのリックがちょっとさしはさまれてしまう。
「♫チェット生まれ神戸育ち、可愛い子とは大体友達」っていうのが僕だ。

そんな私がみても、イーサン・ホークの演技はうまいなと思った。
というか、顔とかめちゃめちゃ似ている。
Lets Get Lostでの晩年のチェットの顔貌をよく研究していると思う*3
 歯を折られて、もさーとした、ジャンキー特有のどろりとした顔を忠実に再現している。また、少し背を曲がった、世捨て人のような、スポーツできなさそうな歩き方も、おそらくチェット・ベイカーを丁寧に演じているのだろう。

 しかし、シーンの少なさ、広い空間を活かした画面づくりのなさからいうと、これはやはり低予算映画なんだろうな。

 * *

 楽器奏者からするとイーサン・ホークの吹き方はとても息が入っているとは言えず、噴飯ものではあるが、これも現代の名優が僕の大好きなチェットのモノマネをしてくれていると思うと、腹も立たない。少し気になったのは、劇中曲。
 Chet Bakerは楽譜が読めないので、レパートリーは極端に少なく、晩年は本当同じ曲ばかり繰り返して演奏している。
 劇中の曲を、もっとその偏ったレパートリーによせてくれればよかったのに。
 How Deep is the oceanとか、But Not For Meとか、Look for the Silver Liningとか。

 でも、口ぐちゃぐちゃになったあと、人前で吹くときの、音が出るか?出るか?という、緊張感を秘めて音を出すシーンとか、すごくよくできていたと思う。

 以下、少しネタバレになる。

*1:気がつけば妖怪ウォッチは跡形もない。プリキュアなどは今も生き永らえているが、あれは本当に一過性のものだったなあ。

*2:ちなみに私的ベストはChet Baker in TokyoとSteeple ChaseでのDoug Raney、Pedersonのトリオの作品である。

*3:もっともこれを演技というかどうかって微妙な話ではある。「モノマネ」じゃないのか。だとしたらコロッケは最優秀助演男優賞くらいとれるのではないか。

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『モルゲンロート』トリオ ナノピークス

モルゲンロート

モルゲンロート

唐口さん(関西で活躍されておられるトランぺッターの方です)のCD発売記念ライブで同道されていた中島さんのCD。サインしていただきました。

Morgenrotは、朝焼けとでもいうのでしょうか?山用語(山用語はドイツ語なんですけど、ほら、ワンダーフォーゲルとかいうでしょ?)の表題作だけオリジナルで、あとはスタンダードだったり、New Standard的な曲だったり。

これね、でもこのアルバムの中で オリジナルのMorgenrotが一番存在感があります。ひたひたと夜から朝に変わっていく様がなんとなく想像できる、素晴らしい曲です。私はラヴェルの「水の戯れ」とか好きなんですが、それに近いたたみかける感がある。
 こういうサウンドは、トロンボーンにしろサックスにしろWind楽器にはできないので、遥か上空を飛ぶ鳥を眺めている気にさせられる。

あとの曲も選曲は非常にいいと思います。そして時に重厚で、時に激しく、3人なのにサウンドがカラフルですね。

しかし、紹介の文句はこれなんですけれども、これどうでしょう。

年間100日以上、山を闊歩し、且つ中華料理の達人、併せてコンポーザー、アレンジャー、プロデューサーの顔を持つ異彩の人中島教秀。

まー、確かにそうでしょうけれども、あまりこの多彩な顔を持つ、的な紹介は、このアルバムのストイックな空気感の勢いを削ぐのでは?
このアルバムで見せている面だけでも、中島さんは十分すごすぎると思うのです。

"I'm through with love" 浜崎航&堀秀彰

I'm Through With Love

I'm Through With Love

  • アーティスト: 堀秀彰&浜崎航 DUO,Hideaki Hori & Wataru Hamasaki DUO,堀秀彰,浜崎航
  • 出版社/メーカー: BQ Records
  • 発売日: 2012/05/17
  • メディア: CD
  • クリック: 3回
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我が師匠浜崎さんのデュオアルバム。
浜崎さんには、この他 Philip Strangeとの共作"Conversation", 片倉真由子さんとの共作
”Single petal of a rose -Duke Ellington Song Book” がある。
今回の作品は、これはこれで非常に趣きがある一枚でした。

Encounterというバンドで長く時間を共有している二人が、敢えてオリジナルを避けてStandard (だったり、尊敬するミュージシャンの曲だったり)を演奏してみた一枚。

基本に立ち返るというか、出発点の確認というか。
ひとことでいうと、大変教養の深い選曲だと思う。
「ベタな選曲」というのがない。

また、この曲を選んで、こういう風に演奏したい、というのが明確であるように思いました。
こういう幅広い選曲って、ローカルミュージシャンのライブでも散見されますが、やはり比べると実力としては頭抜けていますよね。すんげえなあと思う。

ジャケット写の浜崎さんのポージングは、ちょっとかっこ付け過ぎやろとも思うし、逆に裏面の堀さんはちょうどライブの途中の写真なんでしょうが、髪型がペッタリしておりまして、「魔法使いサリー」のカブ然としている。
 二人のルックスギャップはなんだ、という気はします。

それにしても、こういうDuoの、比重というか、「どっちがえらいか」みたいななのは、いつも考えてしまう。昔懐かしの染之助染太郎「これでギャラはおんなじ!」的な台詞を適用したい気はするね。

ピアノとサックスのDuo、確かにピアノの比重はリズムセクションすべてを包含するのでサウンドにおける比重は大きくなる。音数あたり幾らで計算するとピアノの方が全然音が多い。けれども、それでもソロピアノにない重要なメロディーラインを付与するという意味では、サックスもとても重要だし。

そういうもろもろを踏まえた上で、やはり二人が対等の関係を結んでいると考えるべきなんでしょうね。何にせよ、私にとっては、こういう音を、死ぬまでに一度でもだせたらなあと思う目標の一つです。あと、選曲というのも大事であると改めて思いました。

"The Single Petal of a Rose" Duke Ellington Song book

The Single Petal Of A Rose

The Single Petal Of A Rose

 わが師匠浜崎航さんと片倉さんのDuo。数年前からDuke Ellington Songbookと銘打ってライブ活動をしていましたが、この度アルバムになりました。

 考えてみれば、Duke Ellington楽団の戦後の曲って、Bily Strayhornの曲が多いんですよね。
 Strayhornの曲は、それはそれですごいのですが、Strayhornがきてから、エリントンは一歩引いた(管理職に退いた?)感さえあります。
 それまではEllingonの一枚看板だったわけでして、だから、エリントンの曲というと、エリントンの前半生に作られた曲が多いように思います。

 エリントンの曲というのは膨大なアーカイブがあるわけですが、ハードバップなどの、昔日本のジャズ喫茶界で好まれてきた辺りのサウンドでは、それほどは取り上げられないので、そこに少々の断絶があるのです。

 このアルバムでは、どちらかというとレスター・ヤングとかの世代のOld-Schoolerの雰囲気でして(割と細かくいれるビブラートとか)、Encounterなどで、まるっきりコンテンポラリーに振れている浜崎さんの逆のベクトルを垣間見ることができます。

一つ苦言を呈するならば、Duke Ellington Song Bookというユニット名なんですが、私のiPodに入れると、浜崎航とタグ付けするわけにもいかず、片倉真由子とタグ付けするわけにも行かずで、割とライブラリーの中に埋もれてしまうんですよね。ま、むしろ iTuneが、タグクラウド仕様になってくれればいいんですが。

"Diane" Chet Baker

Diane

Diane

 よれよれチェットの晩年の作品群(特にSteeplechaseの)やつはどれも素晴らしいのですが、私はDoug Raney、Pedersenとのドラムレストリオ群を特に愛聴しています。
 このあたりのChetを聴きながら、Chet Bakerという、ある種の天才が辿らざるを得なかった人生の晩年の味について思いをはせるのです。

 で、久しぶりに別のを買ってみました。これはPaul BleyとのDuo盤。
 Paul Bleyって、もうちょっとアヴァンギャルドな演奏ではなかったかと思うけど、ひどく普通の、というか、そんなにひねりのない普通のピアノデュオでのバッキング、のように思われる。
 いや、別に奇を衒う必要はないのですがね。

 スッカスカのラッパの音色でありますが、フレージングなどはやはりツボをおさえて離さないチェット・ベイカー。あまりまとわりつくようにはならないポール・ブレイのピアノ。
 ポール・ブレイが、ベイカーを突き放しているような感じを受ける。
 まぁ、チェットもうろたえたりとかしないんだけれど。
 冒頭のIf I should lose youなんかは、いかにもな 晩年Chetの油の切れた感じを表していて、あざとくさえ思われるくらい。

 "Pent-up House"この手の「よれチェット」にとっては結構きつい曲だが、これは頑張りました。

類家心平 4 "Sector b"

Sector b

Sector b

 最近、国内ジャズのCDといえば、地方にも来てくれるミュージシャンが手売りで持ってきてくれるものを買う、という購入パターンがほとんどだったんです。ナマの演奏を聞けるしCDに思い出も付与されるので、それはそれで非常にいいんですけれども、小規模のジャズクラブに来てくれるミュージシャンの音楽にしか触れない、というのもどうかと思うの。
 それで、雑誌とかみて、今これが押し出しですー的なこれを買ったんです。

 多弁なプロデューサー菊地成孔は、すぐマーケティングの種明かしとかしてくれるから好きさ。
たとえば、これなど→
http://webdacapo.magazineworld.jp/culture/music/62313/

 ま、それでそういうウェブサーチャーに「わかった気」にさせて、購買欲をそそる、という、これは二重の罠なのかもしれません。
 一見わかりやすげな言説にこそ、裏がある、ということをよくこの人はいいますよね。

 ジャケットは、いかにも「ワイルド系、汗がパルファム」的な風貌の類家氏の近影。
 で、内容は、いわゆるメインストリーム・ジャズではないやつ。しごくイマドキのまっとうな演奏。

 マーケット、というのを見据えてCDを作ると、こういう感じになるんだなあ。

 とはいえ、いわゆるマスプロダクトではなく、ハイアートだけども、採算が取れるレベルでの作りこみ方です。
 たとえば 演奏についても、基本的にもうちょっと濃厚でどろどろたりえるけれども、削いで削いで、消費する側が、受け取りやすいレベルに歩み寄らせている。削ってわかりやすくするのがプロデューサー菊地の仕事で、演奏している当人は一切媚びない、みたいな感じ。
 なるほど、菊地プロデュースっていうことを冠する意味は、確かにあると思う。このあたりは結構高度な資本主義社会の高度な計算の片鱗が垣間見られ、さすがだなあと思います。

 ええと、演奏内容は…
 マークXのCFで、にやりと笑う「部長、あの笑顔は……ずるいです」でおなじみの佐藤浩一が、CF中、カーステレオで聴いている音楽は、こんな感じか、って感じのサウンド

 こういうの聴くと、自分もかっこいい音楽やってモテたいなあと思います。
 モテたい病こじらせて、気がつくと37ですよ。
 今年で38、しっとるけのけですよ(大体今の若い子これしらんし)。