半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『アンジャッシュ渡部の大人のための「いい店」選び方の極意』渡部健

Kindle版はコチラ。

最近アマゾンのKindle日替わりセール、昔は1日1冊だったのが、最近3冊くらいあるんよ。
で、これ。

感想。
なんや、このパーフェクト超人は。

優しい語り口*1で、極めてまじめに、まじめに、美味しい店の選び方、探し方、振る舞い方が語られる。
さり気なく語られるノウハウにはしごくもっともと頷かされるし、悪口も、盲従もない。
つまりは極めてまっとうな食についての本なのだ。

芸人ではあるが、確かにアンジャッシュ渡部は、グルメ芸人として下駄をはかされているわけではない。
だれも期待していないところから、食べることが好きで皆に重宝がられ、皆に認められ、今のポジションに至った。
それはかなり感動的な芸能人のクラスチェンジの逸話であります。完全に実力で今の渡部は認定されている。
かっこいいわ。そりゃ。
佐々木希と結婚できるに足る男ですわ。

本の内容は、グルメガイドブックという側面は少なくて、「食べ歩き、外食に際しての総論」とでもいうべき内容。
初心者向きにもマニア向きでもあると思います。そんな淡々とした語り口の中で、食べることに対してどれだけ情熱を傾けられるか、ということがほのみえて、いいです。

  • うまいみせといいみせは違う。
  • 安くて旨いよりも「高いけど安い」
  • それぞれの料理店のジャンルごとの「キラーメニュー」を押さえましょう
  • 「間店(あいだみせ)」の効用。

など、いろいろおもしろいTipsに満ちあふれていた。

*1:ひょっとしたら口述書き起こしなのかもしれない。そんな感じはあります。

"In Concert" Art Farmer/ Slide Hampton

イン・コンサート

イン・コンサート

いきなり、違和感のあるものを取り上げて恐縮です。別にネタに尽きたわけじゃないですけど。
この前、iTunesで自分のリスト内のものを乱れ聴きしていたら*1、ヒットした。
大学一年生くらいのときに愛聴していた、佳作でもなんでもないやつ。
なっつかしー。

Art Farmer、Slide Hampton。
ともにバップ派というか、自分の好みのスタイルの人たち。
特にミディアムとかスロウの曲で、構築的なソロ展開はとてもお手本になるヴァーチュオーゾです。

そんな人達が、なぜかこのライブでは、超速というか*2、まあまあのテンポで、しかも全曲スタンダードをやりまくる。Half Nelson, Darn that Dream, Barbados, I'll Remember Aprilとちょうどいい感じのスタンダードです。
大学1年のときには、Barbados (Fのブルース)とAprilしかわかんなかったな。

で、演奏内容なんですけど(笑)
多分、スライドハンプトンにこのCDを持っていったら、
「いや、ちょっと、やめてよー(笑)。
 他にもっといい作品あるでしょー?」
と笑っていうんじゃないかと思う。そういう一品。

スライドハンプトンたとえばI'll Remember Aprilとかは吹けていない部分もある。トロンボニストにとって「ちょっときついなー」というテンポ。

だけど、そういう、上手な人のライブでの不完全な演奏って、実はいろいろ勉強になる。乱れたところからの立て直しとか。フレーズも無理やりなんとか押し込んでいる感じとか、破綻する演奏から(ぎりぎり破綻してないですけど)見えてくるものは結構あるので。

ドイツかどっかでのライブ。リズムセクションは、
Bass – Ron McClure
Piano – Jim McNeely
Drums – Adam Nussbaum
お、結構いいじゃん。これも大学1年のときにはよくわからなかったけど、ヨーロッパジャズの、今では重鎮の人たちですよね。
フロントの人たちの大汗を横目に、汗一つかかず、クールに地獄に連れて行く……って感じの演奏です。

ちなみに僕がSlide Hamptonで一番好きなのは、David Hazeltineのアルバムでの客演ね。

4 Flights Up

4 Flights Up

  • アーティスト: David Hazeltine Quartet,David Hazeltine,Slide Hampton,Peter Washington,Killer Ray Appleton
  • 出版社/メーカー: Sharp Nine
  • 発売日: 2009/03/07
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
I should Careから始めるこのアルバム、何曲かコピーしました。
決して奇策に走らずフレーズを丁寧に重ねてゆく感じ、すごくお手本にしたい感じなんです。
他にもいい演奏は一杯あります。

*1:ちなみに私は古典的な音楽愛好者なので、基本的に音楽コンテンツはCDでもつようにしています。ストリーミングクソくらえです。iTunesには26000曲が収まっています。

*2:最近ではチョッパヤ!つーんすかね

大家さんと僕

大家さんと僕

大家さんと僕

Kindle版はコチラ:
大家さんと僕

大家さんと僕

話題から乗り遅れて購入。なんかのテレビ番組で取り上げられたのがきっかけ。
でそれを読んだ1ヶ月後くらいに大家さんが亡くなった記事が出た。

なんだか妙なシンクロ感。僕がKindleで購入ボタンを押したあの時は、大家さんはまだ生きていたんだ。
読み返してみた今日、この秋にはもう大家さんはこの世にはいない。

www.asahi.com

芸人さんの処女作とは思えない達筆なヘタウマ感。
作者矢部太郎の控えめな性格、しかし業界特有のラフな感じと、大家さん界隈の静かな生活の
対比、行ったり来たりの面白さ。(こういう二つの世界の対比って、文学などでよくあるパターンなのだが、なんていうんだっけ)

おそらく素封家の令嬢であったのだろう大家さんのハイソっぷり。
東京のお金持ちが使う店(新宿伊勢丹)・宿(京王プラザホテル)。でも今は晩年をゆっくり生きている。たしかにこういう人に対して、トゲのない売れない芸人さんって、ぴったりハマるのかもしれないなあと思った。寄り添う力があれば、誰かの役に立つのだ。

別に生きることに目的なんかなくたっていいと思うけど、人生の晩年にこういう心の交流ができて、それが皆の目に触れる作品になる、というのも人生冥利につきる、と思う。

私も医者なんぞやっているのだが、患者さんの中に妙に上品な老齢の御婦人はしばしばいらっしゃる。なにかっていうととらやの羊羹を持ってこようとする人とか*1
それぞれに人生経験を積み重ねているので、人生の先輩としての凄みのようなエピソード、誰でも一つや二つもっているものだ。クソ忙しいなかで診察しているとゆっくり話せないのだけれど、時々そういう話に出くわす。

*1:東京のとらやだ。ややこしいことに地元にも「虎屋」という和菓子店はある。

小ネタ:

大体私とんでもない量の本を読んでいますけれども、大半はくだらないものだったり、おすすめしづらいものだったりします。
というわけでKindleの中に落ちてた、おすすめするほどでもないものをまとめてお蔵出し。

めしばな刑事タチバナ 31巻

別にクオリティは落ちてはいないと思うけど、大いなるマンネリズムに陥っている。
そろそろ登場人物結婚したりしないか。

Hunter x Hunter 36巻

途切れ途切れがちだけど、物語の密度を失わないのはすごいと思う。でも新刊がでるたびに一巻から読み直しているような気がします。
正直複雑過ぎてわからん。

衛府の七忍 6巻

シグルイ」以来フォローしているけど、まったくもって世界観がわかりません。でも惹き込まれます。楳図かずおみたいなもん。
ただ、どの時代の庶民もヤンキー語を使うのはキュートだと思います。

モテる男と嫌われる男の習慣

「モテる男」と「嫌われる男」の習慣

「モテる男」と「嫌われる男」の習慣

この手の対比もの、やたら読んでいるんですけど(一流と三流の…とか)、私のライフスタイルにフィードバックされてるんでしょうかね。

紀元前一万年のオタ

何でしょう、これ。買ってみたらバリバリのエロ本でした。
まーいいんですけど……
巻末あとがきで作者が「これを描いた動機は『恐竜100万年』のラクエル・ウェルチです!」といっていて、そこだけは激しく共感。

ティアドロップ型の乳房、全然そそられんなーと思いつつ、こういうおっぱいどっかでみたことあるなー……
それこそ、中学生か高校生のころ……少年マガジンで、ボクシングとかやっている漫画……あー『彼女はデリケート!』

全国の団塊Jr.の皆さん、覚えてはります?

やばい日本史

東大教授がおしえる やばい日本史

東大教授がおしえる やばい日本史

うーん、これもなあ。イラスト和田ラヂヲであるところくらいでしょうか、私的なウリは。

林真理子『運命はこうして変えなさい』

林真理子女史の、過去のエッセイからフレーズ120個抜き書き。抜き書きするといいこと言うてはりますわ。
しかしまあ本としては安易ではありますよね、正直いいまして。

36度 ゴトウユキコ

Kindle

「夫のちんぽが入らない」の漫画版で話題となっているゴトウユキコの短編集。
なんかこの人の描く女性は、全体にぽっちゃり*1としていて柔らかそうで、なんか肉感的な印象がある。モデルのような構築的な身体ではなく、柔らかいものに柔らかいものを乗せたような、もよんもよんぶよんぶよんした感じが、この人の作風。

かつて週刊誌をきちんとフォローしていた数年前、ヤングマガジンに「R-中学生」という、中学生男子の下品さと正面から向き合った漫画*2を描いていた。
中学生の下品さはイタい。何が痛いかって、中学生のころの自分の「行き場の無い性欲」のことを思い起こさせるからだ。

36度はオムニバス短編集という趣だが、どれもこれもディスコミュニケーションぶりをえぐるような作品でした。
いわゆる「不品行な性的関係」につきまとう不全感。


男子校、スクールカースト底辺、人に言えない恋愛経験者におかれましては、是非一読されることをおすすめします。
自意識過剰人間には、自分の自意識過剰の分フリがついてぶっささるような構造になっております。

「夫のちんぽが入らない」小説は読んでみたけど、これも読んでみようかな……

*1:男の好む「ぽっちゃり」感をものすごく上手に描写している。

*2:すごい下品なことしか言わない坊主頭の少年=ミノルのフリ向きざまの視線はトラウマもの!

宇多田ヒカル『初恋』

初恋

初恋

なぜか眉毛の手入れを全くしていない近影。
深い印象を残すジャケット写真。
Songsの「宇多田ヒカル特集」を観て購入した。

おわ、これ、すごい。
すごいよ、これ。
なんか凄いところに行っちゃったなあ宇多田ヒカル

一聴した感想。
その後カーステに食わせて数ヶ月聴きこみましたが、聴くたびに感心します。

失礼なコメントではあるが、宇多田ヒカルに対し、歌がものすごいうまいという感想を感じたことはない。
しかしそれは自分の楽曲を伝えるには必要十分な技量の歌唱力を提示しているからなんだろうと思う。
本人には「歌がうまいあたし」という価値観とこだわりはなさそうで、彼女にとっては伝えたい音楽のイデアが優先されるべきものであり、歌唱そのものはあくまで伝達媒体に過ぎないと感じているフシはある。
つまりはボーカリストではなく、ミュージシャンなのだ。

もし彼女が他人の楽曲のカバーアルバムを出すのなら、メロディーの美しさを残しつつリズムやコード進行などを大胆に再解釈したもの、つまり彼女らしさを全面に押し出したものになるのではと期待する。

逆説的な話だが、アレンジャーやコンポーザーとして考えると、歌は抜群にうまいと思う*1

今回のアルバムは、どちらかというと肉声を活かしたシンプルなサウンドフィギュアなんだけど、リズムテンションがすごい。
Webでも「誓い」が話題になっていたようだ。
matome.naver.jp
たとえばNaverまとめサイトでは、単純に、スペクトル分析ソフトにかけて解釈していますが、僕はこれはちょっと違うと思う。
僕はジャズ畑の人間なので、聴き味はジャズワルツによくある3拍4連のフィールに近いと思いました。
4拍で割った世界と3拍のポリリズムにメロディーが行ったり来たり。ポリリズミックアプローチですよね。
かなりおもしろいことをさらりとやっている。
caughtacold.hatenablog.com
この方の解釈はわかりやすくてためになります。僕が考えていたよりももうちょっと複雑でした。ううむ。

Too Proudでも同様のポリリズム*2がでてきます。
以前にTwitterで本人もつぶやいていましたが、こういうリズムテンションは少し彼女の中で流行っているのかなと思いました。

コードワークについても、アニソンなどによくある複雑極まりないコード(すごいなと思いますけどね)ではなく、基本的にすごくシンプルなんだけど、ほんの少し破調とでもいうべき「あれっ?」というどきっとするフックが随所にでてくる。ポピュラリティを保ちつつ、鋭さを失わない。

歌詞については、ダイアローグ感はますますなくなりモノローグゆえの言語の煮詰まり感は少し気になるけれども*3

で、こんだけの芳醇さを、あまり気にせず一聴したら「あれ?普通?」と思わされてしまう韜晦ぶり。
前作Fantomeの、ものすごくあけすけな歌詞群もすごいなあと思ったけど、今作、いろいろ含めて、それを遥かに上回るクオリティだと思いました。
なんというか、リズムにしろ、コードワークにしろ、歌詞にしろ、いろいろ自由極まりない。
それでいて、間口の広い音楽。


前作では、二時間だけのバカンス、良かったですね。イタリアっぽい「大人の世界」の歌詞だと思う。

宇多田ヒカル - 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎

*1:対極の位置にあるのが『いきものがかり』の水野良樹さん、いい楽曲つくるけど、歌はすごい……ですよね。

*2:正確にはメトリック・モデュレーションという

*3:Aiko好きはメンヘラというのはよくある言説なのだが、それはAikoが男女の関係性しか歌っていないからで、宇多田ヒカルの今作は、ある種の閉じた心の人にぶっ刺さりそうな強度がある気がする

『一発屋芸人列伝』山田ルイ53世

一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

Kindle版はコチラ。
一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

なにか雑誌で取り上げられていたので読んでみた。
山田ルイ53世は、もと神童。進学校にて引きこもりになっていたという自伝で、文筆の才を明らかにした。
これは、自分達と同じく「一発屋」とでもいうべきギャクがあたり、売れた芸人達へのインタビュー本。

一瞬にして売れそして、継続したブレイクを維持できず、いつしか忘れさられてしまった、いわゆる「一発屋」。
普通に考えてると、一発屋の話はおもしろいはず。それは、

  • 売れないときの貧乏話
  • ブレイクしたときの仰天エピソード
  • そして徐々に人気が陰りがでてきた時の周囲の変化

と、振れ幅が大きいからだろうね。

ただ、好素材だからといって、一発屋への取材は多分難しそう。栄枯盛衰、人の心変わりをみさせられた彼らは、取材にも心を開くとは思えない。髭男爵山田ルイ53世の有利なことは、自分も一発屋であることから、取材対象も心を開きやすかったはずだ。一発屋の集まり「一発会」という親睦会もあるらしい。

一発屋と呼ばれる人たちは「キャラ芸人」が多い。その理由は、社交が苦手で、孤立する人が結構いるから。社交的な人は、沈まない。つまり、一発屋と言われる人たちは本質的に決まっている、ということになる。だからこそ「一発屋」には独特の悲哀が漂うのだろう。

様々な話題が俎上に載せられた一発屋達の集いで、最も盛り上がりを見せたのがまさにそれ。
「一体、自分は○発屋なのか」という検証トークである。
たとえば、ダンディ坂野。2003年に「ゲッツ!」で一世を風靡した彼を丁度一発とすると、我々髭男爵はせいぜい0.8発だ……といった具合。

ただ、人生の幸福は○発であることではなく、その後の仕事のない谷間の時期が、どれくらい食える状態であったか、によるだろう。あわよくば、有吉のように一発屋から脱する人もいる。

怪我して働けなくなったあと、奥様が実業家として成功しているHG、有名な芸能プロデューサーの息子という出自のわりに、残念きわまりないコウメ太夫、異色の哲学と昭和テイストのテツトモ、ジョイマンの生き方、ロケバス芸人戦争のムーディー勝山と天津木村、波田陽区とにかく明るい安村の家族のいい話、キンタロー。

それぞれ丁寧に掘り下げられ「取材されがい」のあるいい記事が多かったように思う。

読み味としては水道橋博士の一連の著作に近い。
文体とか、改行のスタイルとか。
これはブログ時代の文章の書き方は、どうしてもある程度似通ってしまうということもあると思うが、対象への愛の書き方が、水道橋と似ているのかもしれない。