古い言い方だが、リケジョがんばれ。
獣医学部の病理から海洋生物に進んだ女性の、一般向け仕事紹介本。
田島木綿子さんは私より少し年上の、この分野での有名人。
水棲哺乳類(イルカ・クジラ・シャチ・アザラシなども)の専門家なのであるが、仕事の時間の多くは、ストランディング(水棲哺乳類が陸に打ち上げられること。生死を問わず)。
はい、この「ストランディング」という言葉を知ることができれば、この本の目的は半ば達成。
生きているストランディングの場合は、生きているうちになんとか海に帰す努力をしなきゃいけないが、これは結構難しいらしい。打ち上げられた大型水棲哺乳類は自重に内臓が耐えられず、肺が潰れたりするので、海に帰しても深刻なダメージを負っていることが多いから。
デス・ストランディング(死んで打ち上げられた)場合は、腐敗が進行する前に現着して調査、解剖、標本の採取などを行うわけだが、なんせモノがめっちゃでかいので、大仕事らしい。
解剖臭・腐敗臭との戦い、大型解剖道具の大変さ(なんならパワーショベルとかでテンションをかけながら皮膚を切る、とかダイナミックな話満載だ)そういう水棲哺乳類研究者の大変ながらもワクワクな毎日、という描写の合間に、きちんと研究者が一般の人にわかりやすく説明も挿入されていて、頭のいい話と悪い話のブレンドがとてもうまい(というか、そこに差がなく平文で語られているのがとても読みやすい)。
耐圧のため、内臓が丸っこく進化している話、水棲哺乳類の研究者には女性が多いけど、これは生物界では大きなオスがモテるという種が多いから?というホントかウソかわからない仮説、52Hzのクジラの話。イルカ達の塩分調節機構は謎な話。アシカは臭い、という話など、マイクロプラスチックとPOPsの話など、「ふうーん」という思われる話が多かった。
すごく魅力的な、別世界の話。ふうーん。
しかし大変そうだよなあ。
好きじゃなかったらできない仕事だと思う。
そういえばうちの妻は臨床検査技師の短大を卒業後理学部生物学科に編入した人なのであるが、やはり海洋生物にはちょいと興味はあったみたいだが、海洋系は結構競争率が高くて大変だったのであきらめたと聞いたことがある。