- 作者: 小林照幸
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/07
- メディア: 単行本
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とある医師会の会合で、
「日本住血吸虫のことお前は知らんだろう。この本を貸してやるわい」
と、1.5世代くらい上の(偉そうな)先輩の開業医の先生に(頼みもしないのに)貸与された本。
これを押し貸しという。
そういういきさつの煩わしさのため、家にツン読していたのだが、返さなきゃいけないしなぁ……
と渋々読んだのだが、これがなかなかどうして、非常に面白かった。
先輩ごめんなさい。僕が間違ってました。失礼しました。
日本住血吸虫は、日本の中でも限られた地域の風土病であった。その診断、治療史のノンフィクション。
脚色された部分はほとんどなく、事実の羅列だけで、十分に面白い。
私が住んでいるこの地域は、この本の、まさにその地域なんですよ。それも、面白かった理由である。
限定された医療レベル・医療機器・知識から、原因不明の奇病といわれていた病気の病態が解明されるまで。
治療学。
そして、環境整備から撲滅に至るまで。
非常におもしろいのは、この奇病の鍵となるのは中間宿主のミヤイリガイなのだが、中間宿主の撲滅のため、用水路をコンクリートの溝渠に代えることが有効だったこと。
これって、いわゆる「自然保護」的な現代の観点からみると、かなりひどい自然破壊の正当化であるようにも見える。
何しろミヤイリガイは、流れがゆったりした、綺麗な水にしか住まない。
実はホタルとミヤイリガイは好適地が一緒だそうで、ミヤイリガイを根絶させるために払った努力が実を結ぶようになるころには、このあたりの水源からホタルは姿を消していた……という皮肉な結果ということなのだ。
ホタルがいなくなった状態が自然からかけ離れているのと同様、日本住血吸虫による病気が起こらない状態、というのも「自然」とはかけ離れている、ということなのである。子供の頃からひどくひ弱に育ったり、むごたらしく肝不全になって死ぬ、というのが「自然」ということなのだ。
自然を破壊する、というのはもちろんよくないことである。かといって、自然を重視するあまり、日本住血吸虫があってもしようがない、と考えるには、日本住血吸虫の症状は重すぎる。
自然イコール尊重すべきというナイーブすぎるイデオロギーを疑うきっかけになればいいと思う。