- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
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本当は『わたしたちが孤児だったころ』を先に読んだんですが、まずこの作品の感想を。
執事の独白というあまりにもイギリス的な形式を日本人であるカズオ・イシグロがここまで書けたというのは、イギリス文壇にとってはきっとちょっとしたショックだったんだろうなと思いました。
それはともかく、読んでいて非常に「痛さ」を感じるお話でした。もっとも、こういう痛みは、もう後戻り出来ない老年期の人間のもので、たかが32歳でこんなに追随して後悔の感情を励起させられてしまう自分も、どうかとは思いますけれども、ふと振り返って「ああ〜〜!!」と叫びたし、走り出したくなるようなことは、大したことのない人生でも、いくつもあります。
今まで読んだ本のなかで、読み味が一番似ているのは、アガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』でした。あれも、物語の中で、主人公自体に大きな動きはなく、基本的に過ぎ去ったことの回想が中心です。
過去を振り返る、どうしようもないやるせなさ。
すべての人間に同様のショックを与えるわけではないと思いますが、少なくとも僕にとっては毒が強すぎました。この本、僕のATフィールドにあまりにも深く、侵入しすぎてくれました……… オススメです……うう……。
(はまぞうではこの写真ですが、僕が持っているのはこの、1973年版のやつです)。
出来れば英語版も読んでみたくなりました。多分もの凄くきれいなイギリス英語で書かれてるんだろうなと想像するわけですけれども。日本語訳で、「品格」と訳されていた言葉は原著ではどう書かれていたのかが知りたい。
一部ネタバレになりますので、続きは隠します。
僕が最も痛々しかったのは、この話の主人公の、会いに行くメイド頭に対して自分が思っていた、「なんか夫婦仲が悪いみたいなことを書いてよこしてたし、多分持ちかけたら屋敷に戻ってくれんじゃねえか」的な主人公の予想ね。で、その会ってみて、そうでもなかったというかっこわるさ。ほんで、自分の本心など打ち明けもせずそのまま別れるチキンぶりね。ああいうかっこわるさに似た思いは今まで自分の人生で何度か味わったなあと、過去恥部をえぐられたような気分になりました。