半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

筒井康隆『旅のラゴス』

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旅行中に購入。何気なく読み始めたら止まらなくなって、振り子列車の中で酔いながら読了。
筒井康隆は数多ある短編集は大体読みさらったものの、長編は(老後の楽しみ?)のためにとっておくことにしていた。この作品は長編と思っていたが、連作短編という形式なので、厳密な意味では長編とは言えないかもしれない。ま、しかし旅先で買って持ち歩くにはちょうどいい厚さではある。

 おもしろかった。

 こういう、孤独な旅をする男が、世界のいろいろな地方を尋ね歩くという形式は、その物語の斉一性を壊さず続けることができる、連載には格好の形式である。つまりA(出発)→B→C(帰還もしくは到達)の、B1→B2→B3→B4……と途中の道程を繋げていけばいくらでも続けられる。例えば、寅さんだってそうである。旅人自体を狂言回しの役にすれば、単にいろいろな場面を並列に描くことが出来るし。
 そういった「終わりなき旅」のモチーフが最もあからさまなのは、ミヒャエル・エンデの書いた『夢世界の旅人マックス・ムトの手記』である。

 この話も、読み始め当初は、そういった永遠のマンネリズムをねらった形式なのかなと思っていた。実際、最初の二話か、三話までは作者もそう考えていたとそうとれなくもない匂いがする。

 だが意外、そうした安易な斉一性を壊して、物語が前に動き始める。
 旅をするラゴスの視点で、断続的に、虫瞰的に描かれていた世界が、そうした旅のつながりのなかで次第に全貌を現し、ラゴスの旅の目的が明らかになる。彼の世界に対し、より一層、実在感を持つことができる。

 しかし、そこからさらに物語は転回する。結局の所、旅とは人生であり、人生とは旅なのだということが提示される。動的であるとと思っていた物語は、結局のところ静かに収斂する。

 ううむ。

 筒井作品には、どうしても獣性や生々しさがついて回ると思っていたのだが、この物語は奇妙に静謐で、冷えている。