半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

新井素子『ひとめあなたに…』

ひとめあなたに… (角川文庫)

ひとめあなたに… (角川文庫)

 僕は中学生の頃からのSF好きではありますが、中学生って、妙な自意識の高さが幅を狭めてしまうようなところがありまして、いわゆるクラークとか、アシモフとか、PKディックとかの洋物の教科書的なSFばっかり読んでおったわけです。娯楽のために読むというよりは、スノビズムの混じった求道的な姿勢だったんでしょうね(ああいやだ)。そんな間違った硬派気取りの私にとっては新井素子?そんなナンパなもの(……冷笑)と読む前から決めつけて手もださなかったわけですが、二年前にチグリスとユーフラテスを読み、図らずも感動してしまったわけです。

 それ以降大反省しまして、古本屋で新井素子があれば買う状態になりました。しかしいくつかのエッセイ集を読んで、口調がやはり気に入らず(鳩を「はとさん」と言う文体は僕にとってはやはりちょっと引っかかる)中学時代にしていた評価の方に傾きかけていたのです。
 
 というのが、今回の前ふりで、105円の古本コーナーで投げ売りされているので、買った。

 
 ……ほーう。いい。
ちょっと筋立てには無理があるなと思うところもありますが(話のつなぎ方を偶然に頼りすぎている感があるし、主人公は狂言回しなのか、主題なのか、途中からはっきりしなくなってくるから)いい話ですね。読後感がいいんだなぁ。
 人の『想いの強さ』という個人的なものが、ある種宗教的な崇高さを以て語られる。文体こそ幼稚であるが、その訥とした口調がリアルさにつながっているのかもしれない。好きではないが、僕も80年代に青春時代を過ごした人間なので、この口調自体は慣れたものではあるから。この主題がその後『チグリスとユーフラテス』に発展したのではないかと思うわけです。

 しかし、グロい描写と評判のチャイニーズスープのくだりなどは、所詮ままごと感があった。だってこの前僕が読んでいたの 吉村萬壱の『ハリガネムシ』とかだもの。それに比べればね。