オススメ度 100点
トマス・ミジリーの無名なのに影響力強すぎ度 100点
- 作者: トム・フィリップス,禰冝田亜希
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/06/18
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
人類、万物の霊長とか言ってますけど、ものすごい間抜けなことばっかりやってまっせ!
という話を、今時の洋書にありがちな割とポップな口調で書いている(それとも訳のはやりがそうなのか)本。
人類の脳はあんぽんたんにできている。
ま、昔のギリシア神話でいうと、プロメテウスとエピメテウスというのがいて、プロメテウスは「先に考える人」エピメテウスは「後に考える人」だったんだけど、人間っつーのはまあエピメテウスもいいとこだわなあ。
現生人類がやってくると、途端にご近所さんがいなくなるというパターンが人類の歴史を通じてにわかにできあがった
私たちがやってくると、わずか数千年で ネアンデルタール人は、私たちのDNAにその遺伝子をうっすらと残して、化石の記録から消えていった。
そうでなければ殺してしまったのかもしれない。まあ。それが私たちだから。
今思うと、創世記の原罪としての知恵の実のりんごなんぞ言っているけど、我々はもっと同族のネアンデルタール殺しをもっと原罪として背負わないといけないのかもしれない。
この本の内容は、人間の脳の「ヒューリスティックス」回路によって、不正確な情報を集積し、誤ったパターン認識のもとに、堂々と間違ったことを侵すという人間の過ちのパターンができた、というもの。
それに集団思考(内心おかしいなと思っていても声高な主張があればそちらにしたがってしまう)の習性と「ダニング・クルーガー効果」(よくわかっていない人間ほど、自分の無能さを認識できず自分を買いかぶり、間違った選択を断定的にしてしまう)が輪をかける。*1
とはいえ、そこの専門的な掘り下げというよりは、事例紹介が中心だ。
農業革命と、アラル海の話とか、メキシコ湾のデッドゾーン(アメリカ南部から流れ出る肥料のせいで藻が大発生している部分)、イースター島のエピソード。
アメリカでのムクドリの大発生(現在帰化植物・動物が在来種を脅かすなんて話は常識になっているけど、昔はその逆のイギリスから動物をもちこんで定住化させる「アメリカ順化協会」なんぞがあったらしい…)、オーストラリアでのうさぎの大繁殖。
もしくは専制君主の愚かしい行為。
では民主主義がいいかというと、民主主義で下された間違った決定など。
思わぬ結果をうんだ政策。
戦争での馬鹿馬鹿しいエピソード。
植民地政策でのささいな意思決定とそれが何千万人もの被害を生み出すことなど。
外交での馬鹿馬鹿しい失敗。
自然破壊。有鉛ガソリンと、フロンを同じ人間(トマス・ミジリー)が発明していたとは知らなかった。
愚行を、ジャンルごとにわかりやすく取り上げ、非常に面白い…面白くはないけど、取り上げ方がシニカルなせいか、渇いた笑いが込み上げてくる。
元気はでないし、明日から頑張ろうという気にもなれないが、「まあいいか!」という気にさせられてしまう作品。
いや、受け止め方としては、全然よくないんだけどね。
「愚行の世界史」
- 作者: バーバラ・W.タックマン,大社淑子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1987/12
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
愚行に対して怒りを感じるやつだった。
*1:そういえば、「なんでも鑑定団」と「芸能人格付けチェック」はダニング・クルーガー効果が肝になっていると思われる。