- 作者: 内田百けん
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/04/25
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (100件) を見る
内田百輭は僕が生まれる頃 とうに過去の人なわけで、無頼というか、無為的な反社会生活的作家という認識しかない。その人が昔は軍学校で語学教師だったなんて意外な過去だ。伊丹十三が外国映画にも出演していた俳優であったことを知らないのと同様の驚きである。
この本は「百鬼園先生」の生活という体裁で自分のそういう体験談を随想。百輭、ひゃっけん、ひゃっけん、ひゃっきえん、百鬼園、ということに半ばまで読んで初めて気が付いた。
……うーん、適当な先生だ。しかも変なところで頑固。
はっきり言って自分の師として戴くのはちょっと……と思ったけど、自分の人生を振り返ると、こんな風に「教えること」に対して消極的な先生は確かに居た。
むしろ教師陣の中に一人くらいそういう人がいないと、息苦しい気さえする。すべての先生がそれだと困るだろうけれど。
僕が高校生の時の数学の先生はかなり適当で、教え方や数学的なセンスはすごいのだが、必ず板書の途中で計算間違いをする人だった。式の展開などで必ず「あれ?」みたいになって、生徒に指摘されて正しい道に戻るのだ。
しかしそれは彼の一面に過ぎず、多彩な解法のバリエーションを示し、解までのコンセプトもわかりやすく、極めて懐の深い授業をしてくれた。計算はラフだが、とにかく知的な数学だった。
おまけにゴルフのハンディは5で上から下までブランドずくめ。禿げては居たが、大変な伊達男であった。飄々として人生に余裕がある彼のライフスタイルは、今の自分に大きな影響を与えているような気がする。
内田百輭とは少し話がずれたが、確かに「教えること」という評価軸はダメだけれど、人生の先達として為になる人というのは確実にいる。新しい内閣ではこれからは教育を変革し「ダメ教師は駆逐」していくことになるらしいけど、きっとそうなるとそういう先生は世間から隠れてしまうのだろうかなあ。