半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

岸田秀『ものぐさ箸やすめ』

 独自な精神分析理論を展開する岸田秀の、割と短めのエッセイの集積。まさに箸やすめ。この人は衒いがあるのかないのか、みもふたも無い題名がすきで、そんなところも岸田秀らしいといえましょう。

 中学の時の政経の先生が岸田秀が好きで、つられてそのころ私も読み始めた。人格形成期の多くの部分でこの人の理論に淫していたためか、この「岸田理論」はもはや自分の中で当たり前になっているのだが、学会とか、そういうところでスタンダードになっているかというとそうではない。なぜかなと思っていたのだが、この人は(大学の先生のくせに)学術論文はまったく書かないらしい。そりゃスタンダードにならないはずだわ。

 冷静に考えると、精神分裂病の「引き裂かれた自己」モデルは、精神分析の世界はともかく、精神医学ではまったく通用しないよな。

 それにしても、うーん、なんだこの無力感にあふれた表紙絵は。