半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

森本忠夫『マクロ経営学から見た太平洋戦争』

マクロ経営学から見た太平洋戦争 (PHP新書)

マクロ経営学から見た太平洋戦争 (PHP新書)

 よんでて、頭がくらくらした。怒りに。
 勿論この本に対してではなく、太平洋戦争の舵取りをした軍部にだ。
 岸田秀は太平洋戦史を読むと怒りに我を忘れてしまうらしいが、きわめてそれに近い思いを抱いた。私は当然戦後生まれだし、緩やかな右派であると自認しているのだが、これを読むと、太平洋戦争を肯定する気にはとてもなれない。


 この本は、一見自虐史観のようにみえるが、極力経済の面で太平洋戦争を検証している。むしろ「史観」という主観を排したところに説得力がある。「マクロ経営」であるから、要するに太平洋戦争を会社経営のような観点で分析してみたということだ。

 で、その観点で数字を克明に追っていけば、そりゃこんな会社つぶれるしかない。
 いくら創業の理念が崇高でも、魅力的な商品を取り扱っていてもつぶれざるをえない会社はつぶれる。結局戦略を決定する幹部の質によるのだろうが、大日本株式会社は、この点では頭をばっさり刈られた鶏並みである。

 100歩ゆずって、あの大戦が侵略ではなく、祖国の防衛のためにたたかったものであるとしても、やはり大局観なしにずぶずぶと戦争にのめりこんでいった罪は重い。軍事の罪だけではなく政治の罪でもあるのだろうけれど。
 たとえば、日中戦争から太平洋戦争において、武器・弾薬の生産量がピークに達したのはいつなのか?というと、これがびっくり日中戦争二年目の1938年度なんである。要するに、太平洋戦争をする前に、もう日本国の国力としてはバテバテだったのだ。そんな状況で、米国と戦争をしようというのは、やはり愚と言われても仕方がないと思うよ。

 しかも中国戦線を膠着、もしくは後退させて太平洋戦争に注力するならまだしも、1941年以後も、戦費として最も予算をつぎこんでいるのは中国戦線で、たとえば南太平洋戦線には15%も歩兵を送り込んでいない。しかもそんな限られた兵力をつぎこんでいるのに、無計画に戦線を拡大しては、勝てる戦も勝てなくて当然。

 よく、歴史のIfみたいな(最近だったらかわぐちかいじの『ジパング』とか)そういう架空戦記物がありますが、なんかもうこの数字をみれば、100回やっても勝てんと思う。たとえミッドウェーで負けなくても、無理。

以前http://d.hatena.ne.jp/hanjukudoctor/20040617を読んだのと同じような気分になった。
で、なんともいえないやりきれなさを感じるのは、戦後になってもこうした「ええかっこ」というか、「ネガティブなことを正直に言わない国民性」というのは全く改善されていないようにみえるからだ。ワールドカップ予選で、「このままでは世界と戦う力はない」と言った中田は偉いと思った。ああいうことを誰も言わないうちに、太平洋戦争ではみんなその気になっちゃったんだから。レトロスペクティブにみてみると、それほどかっこうわるいことはないのだ。