- 作者: 高野秀行
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高野秀行という人は、辺境を冒険し、それを小説やルポにする辺境作家というジャンルの人。
なんだかんだいって活動歴も長く、一度も文章を読んだことがない人は少ないんじゃないかと思う。
平成にコンスタントに活動している人だ。
「幻獣ムベンベを追え」は、早稲田の探検部時代のアフリカ冒険行を書いたもの。
ネッシーなどと同じ、ムゲーレ・ムベンベという水棲動物?
いわゆるUMAの確認というやつだ。
10人くらいのグループ御一行様でアフリカのとある湖の湖畔に趣き、40日監視を行う、という企画。
結局、幻獣は現れないのだが、すぐれた民族観察日記になっているのがおもしろいところ。
この
腰痛探検家
その後の高野氏は現役の早稲田探検部時代に書いたこの本がきっかけで、辺境でのフィールドワークを本にする作家として活躍。
数十作を著作し、中堅作家になったある日腰痛になってしまった。
この本はその治療行脚と、その顛末を記したものだ。
腰痛:に対して、西洋医学、東洋医学、ホリスティック、リフレクソロジーいろいろある民間療法も合わせて、試す高野。
これが非常に面白かった。
腰痛というものも、医療従事者からの視点と、患者からの視点というのは随分違うのだろう。
様々な治療解釈が腰痛にはありうるし、そこには、西洋医学、東洋医学でアプローチは全く同じではない。
そして、西洋医学が東洋医学に全く優っているわけでもないのが、脊柱管狭窄症・ヘルニアなどの明確なOp適応には至っていない腰痛の面白いところだ。高度情報社会において、民間療法業界は、文字通り「秘境」状態にある。
この秘境を探検する、高野氏の面目躍如たるところだ。
腰痛は、異文化的な解釈のせめぎあう不可思議な病態であり、それを身を以て経験する高野氏の筆は非常にするどく、面白い。
もともとUMAを追いかけている時も、UMAそのものを追いかけているというよりは、未確認生物がささやかれる社会背景というものに興味を持っていた高野。
例えば、今後に住むムベンベという怪獣を三回も探しに行った。湖に棲むというのでその湖を一ヶ月間、24時間体制で調べた。
(中略)
その辺はモザイクのようにいろいろの部族が住んでいる。だが、似たような環境にあるのに、ムベンベを目撃したりムベンベについての伝承を持っているのはボミタバ族というたった一つの部族だけだった。すぐ隣の部族は謎の怪獣などまったく知らない。
(中略)
つまり幻の怪獣ムベンベはボミタバ族と何らかの深い関係にあり、生物学的というよりは文化的な存在である可能性が高いということだ。
腰痛についてもいろいろな解釈を検証し、最終的には結論にいたる高野。
結局、腰痛の原因は、例えば、辺境に出かける時にはビーチサンダルのようなもので行くことが多いのだが、その時にはズルズルペタペタあるく、足をあげない動きになっていることが多い。また、寝袋で寝る習慣がついてしまったため、仰臥位で寝返りを全く打たない生活習慣も問題である、という、結局辺境生活が、腰痛の遠因になっている部分もあるのはおもしろかった。
これは医者は一度読んでみたらいいと思う。
日常診療における、医師と患者の疾病モデルの齟齬というのは常にあるのだが、その辺りの違和感は、こういう作品であらわにされるかもしれない。