半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『瀬島龍三 参謀の昭和史』

「小才子、大局の明を欠く」

ちょっと前、GWをすぎた五月末、「流行り病」に伏せっていた。
熱があり、朦朧としている状態で、Kindleで以前かっていた「不毛地帯」を読み返していた。TVドラマ化されてからは、不毛地帯の主人公壱岐正は、唐沢寿明のイメージになったが、まあ、不毛地帯では、シベリア帰りの元帝国陸軍参謀の壱岐正は、とかく一本気で善良で、日本経済の激動に巻き込まれてゆくわけだ。

著者の山崎豊子は、不毛地帯を「フィクションである」と断りを入れているけれども、そのモデルになったのは、明らかに瀬島龍三氏なのである。

これだけの共通点があったら、まあ壱岐正=瀬島龍三というふうに世間的には受け止められるだろうし、
ある時から、瀬島自身もそれを否定せず、利用していたフシもあるようだ。

では、瀬島龍三はそのまんま壱岐正のような人格だったのか、瀬島はどんな人間だったのか…というのがこの本の眼目。

  • 不毛地帯」で描かれた「愛国者」としての壱岐正と瀬島の行動は結構違う
  • 不毛地帯の主人公の足跡は瀬島龍三に極めて近いが、人物造形は、複数の人間を組み合わせたもの。
  • 電報握りつぶし事件、東京裁判での証言、伊藤忠での事業本部体制づくり、東亜石油問題…小説とは異なる部分はいくつもある。
  • 瀬島に過去のことをインタビューしても、細部に至るまで極めて記憶力がいい反面、そういった疑惑の部分については、実にうまく「記憶違い」「記憶がない」ということで核心に近づかない。

瀬島は伊藤忠をやめてから、第二臨調の影の主役として国政に深く関与してゆく。
「愛国の士」みたいに思われていたし、実際高い立場にいたにもかかわらず、私利私欲にまみれたプライベートではなかったようだ。

でも、保坂氏の結論は、はっきりとは述べられていないが
「とても頭がよく、人あたりも丁寧で、私利私欲もなく清潔ではあるが、本質的には卑怯者」と評しているように思われる。
もちろん、この本は瀬島氏が存命の時に発刊されているので、そこまで表立ってはコメントしていないのが趣深いところだ。でも、瀬島龍三の死後も影響を及ぼすタイプの思想家ではないので(極めて優秀な実務家)、今瀬島龍三を再検証しても、そこにはあまり意味もなかったりして、どっちらけの感じである。