- 作者: 小熊英二
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ええと、id:FujiponさんのBlogで紹介されていたのがきっかけだったかと思います。
Kindleでぽちっとしました。
すごいいい本でした。
北海道サロマ地区で出身の一人の男性が、東京に出て、出征し、シベリアに抑留体験を経て、日本に戻り、いろいろ苦労をした生活の歴史。
戦争文学というのはいろいろなものがあるが、基本的には「文学青年」の素地をもっている旧制中学出身などの教養のある階層から語られる。パターンとしては士官学校へ入学していたり、学徒出陣だったり。
この方のように農村出身の労働階級の一般入隊の兵卒の経験というのは語られることが少ない。(近いものがあるとすれば、おそらく水木しげる先生)。
この方の場合も、おそらく自伝を著する文学的素養というのは難しいはずだ。虫瞰的な戦後史という類のものになるはずだが、語りは非常に正確で冷静かつ客観的であり、語り手の知性が随所にうかがえる。
そして激動の時代でありながら、話は淡々と進む。
戦争中の話も面白かったが、戦後の有為転変、結核病棟のありよう、都市生活、戦後の戦争に対する意味あいに対する疑問、現場に立ちあったものにしか言えない感想が随所に記されており、非常に勉強になった。
シベリア抑留は、ソ連としては戦争捕虜を安価な労働力として使役するのが目的であったはずだが、実は赤字であったらしい。
ソ連内務省の予算収支によると、捕虜労働による収益が収容所の維持管理費にみあわず、1946年度には3300万ルーブルの赤字を連邦予算から補てんしたという(カルポフ前掲『スターリンの捕虜たち』)。
しかしそれは、日本の捕虜たちの境遇が奴隷的であったことを否定する根拠にはならない。
しかし同時に、こうしたことは日本側にもいえる。大日本帝国の朝鮮統治は赤字だったともいわれるが、それが善行を施した根拠になるわけではない。また日本軍がアジア各地で現地住民から物資を略奪したのも、補給を軽視したマネージメントの拙劣さゆえであり、その最終的な責任は国力不相応に戦線を拡大した日本政府にある。
そうだよね。
ネトウヨ嫌韓の人はこういうことを言いたがるけど、なんか違うよなと思っていたんです。
腑に落ちました。
昨年の9月にアントニー・ビーヴァー著『第二次世界大戦』を読み、重かったものの、意義のある読書になったのですが、その時に感じた時代の酷薄さと、当然ながら重なります。(http://d.hatena.ne.jp/hanjukudoctor/20150903)
今の時代に生まれててよかった。
60人が世界の富の半分を占める不平等な社会だったとしても、今の方がまだいいよ。
読み終えて、ため息がでます。