そういうジャンルがあればだが、「アルコール小説」の極北。
自らの体験と大いに重なるところがあるようだが、一人の大酒家がアルコール性肝炎にて入院し、そして退院するお話。舞台は病院である。
この小説で描かれているのは、僕たち医師が日常的に過ごしている、まさに僕らの仕事場の風景そのものである。だが、普段我々がながめている医者の視点と、患者の視点とはこうも違うものかということをこの小説で改めて気づかされてしまった。
もっともここでの「患者の視点」というのは中島らもという才能を持った目で観察された、とびっきりの景色には違いないわけだけれど、言語化能力に優れていない普通の患者さんだって似たり寄ったりの奇妙な違和感を感じているに違いあるまい。僕たちは、あまり感じすぎないようにこの非日常空間を生きているのだなぁ、と小説の大筋とは関係ないところで、慨嘆してしまった。
この小説では、期待感のあるラストで余韻を残しつつ終わるのだが、現実はそう甘いものでもなかった。だから、より一層この小説のラストはせつなく、悲しく、そして寂しい。
それから わかぎえふはやっぱりこの半自伝小説の中に埋め込まれているのか!?と勘繰ってみたり、みなかったり。