- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/02/28
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 37回
- この商品を含むブログ (133件) を見る
この人の持っている不思議な世界が妙に気になる。
思念が、物に宿るというか、そういうの。
この話は、現代を生きるユウコと少し痴呆が進んできた祖母の話。
認知症ではあるが、家族の他の者が見ていない深夜だけ正気に戻る祖母との交流、そして熱帯魚の飼育とその社会の崩壊、そして祖母の少女の頃の話が不思議な連関をみせて進んでゆく。決していい話でも、きれいな話でもなく、物語は、いわゆる物語的な終焉をみせず、盲端のようなものを残して終わる。残されるのは、奇妙な、すっかり、ぽっかりとした気持ち。
彼女が書くのはいずれも奇譚で、自然科学的にはあり得ない。
ただ、思念に力があるというのは、科学者の末席にいる僕からしても確かにそうなのだろうなと思うのだ。自分の人生を振り返っても、自分の心に強く衝撃を残したような出来事によって、自分からそういう残留思念のようなものがまろびでたような気がすることは確かにある。そういう思念がその後一体どうなるのか、解決しなかった思いは、そのまま宙に消え去ってしまうのか、それとも、残留思念としてその場に留まり、その後、誰かに影響を及ぼしうるのか。
多分、僕たちはそういう事があって欲しいと思っている。そういう僕たちが、ファンタジーを現実にしているのだ。