半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『蒲公英草紙』恩田陸

 ずいぶん昔に家人が買ったけれども、あまり読む気にはなれず、放りっぱなしで、もう3年くらい経ったんじゃないだろうか。今回怪我で入院、蔵書読み返しフェアーの一貫として読んだ。

 綺麗過ぎる話ではないか、ということが少し気にはなりましたが(なんというか、現実世界にある夾雑物が少なすぎて、整いすぎているのです。現実の街ではなく、映画撮影セットの街、のような) しかし、作者の言いたいことはわかるような気がする。

 医者も10年もやり、人の親にもなりますと、私のような諧謔家の若者(であった)人間も、治らない病院に涙する家族、理不尽な運命、逆にまるで奇跡のようにしかみえないような幸運を目のあたりしてきました。
 思えば、昔のことを考えたらずいぶん涙もろくなったもんです。

 「しまう」能力。
 悼み、記憶を残すこと。

 最近の僕は、患者さんが亡くなった時に、医学的な話はともかくとして、最期の瞬間、いい死の場面が提供してあげられたのかどうかを、考えるようになりました。
 なかなか、一勤務医が提供できることというと、限られてはいますけれど。

 それから、この話の舞台は福島なんですよね。
1900年代初頭の話で、もちろんフィクションではあるのですが、21世紀の我々が福島に起こしてしまったことを考えると、暗澹たる気持ちにもなります。