半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ローマ帝国の崩壊〜文明が終わるということ』

ローマ帝国。古代の文明で、共和政・帝政と移行したあと黄金時代から混迷の時代を経て、崩壊する。
ローマ帝国の崩壊のあとはおよそ1000年の「暗黒の中世」を経て、ルネッサンス期・産業革命を経て近代に入るまではヨーロッパは文明崩壊後の苦難の時代を生きなければならなかった… というのが、一般的な歴史理解。

しかし戦後、ローマ帝国の崩壊→暗黒の中世という図式はちょっと一面的にすぎるのではないか、古代末期時代は、政治・行政・経済面を中心に論じればそうかもしれないが、宗教・社会・文化などのソフトの面ではむしろ進化・発展し、独自の価値を持つ画期的な時代だったんだ。ローマ時代は蛮族の侵入によって文明社会が崩壊したわけではなく、緩やかな共存の時代のなかで支配権が移譲されたんだよ、という新説が、欧米では現在主流になっているらしい。(1970年代よりピータ・ブラウンによる学説)

でね、この本は、でもこの新しい歴史理解って、やっぱり違うんじゃない?
やっぱり侵略者達は繰り返す侵略・略奪・殺人で、文明を荒廃させたし、
ローマ時代と古代末期といわれる西ローマ帝国滅亡後は、人々の栄養状態・生活水準・建築物・識字率なども先史時代の状態なみに陥っていたらしい。それはやっぱりハッピーな状態とは言えないし、やっぱり「文明の終わり」だと思います…という反論の本。

最近の欧米のローマ末期時代の学問のトレンドを知らなかったから「へーそうなんか」と思った。という話。
その意味では、この本は「二周目」の話なんだよな。

でこういう学説のトレンドって、結局今ヘゲモニーをもっているアングロサクソンにある程度「配慮」された史観というわけらしい。
確かにアングロサクソンからすると「高度な文明を誇っていたローマ文明」を滅ぼした蛮族という自らの出自は確かに耐えられないのかもしれない。ローマ末期が蛮族による簒奪ではなく禅譲だ、という風に思いたいんだろう。

現在のEUの中心地、ストラスブール・フランクフルト・ブリュッセルを結んだ三角形は8〜9世紀のフランク族の帝国の中心は厳密に一致しているわけで、まあアジアだろうが、ヨーロッパだろうが、結局現代の政治的なスタンスから過去の歴史を毀誉褒貶してゆくんだな、ということで、わりと世界中、頭いい悪いはともかく、くだらねえな話だな、とは思う。

中世から近世に至るまで、ヨーロッパ人なんて野蛮国もいいとこじゃねえか。宗教改革とかカソリックプロテスタントの争いなんて結構近年の話で、まあ残虐極まりないし、第二次世界大戦だって。