半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『グリーンブック』

ちょっと前に アマゾンプライムで見た。

イタリア系のレイシストの主人公が、インテリの黒人(ピアニストでカーネギーホールに住んでいて、教授と言われている)のクラシックピアニストの南部へのツアーに同行する話。
もうこの前フリだけで、いろんな軋轢・トラブルが予想される。
当然そうなる。
南北の構造的な問題もあるし、公民権運動・差別問題も濃厚にある。
それぞれのパーソナリティに起因するトラブルも、そりゃ旅ですから起こる。

ものすごく繊細で傷つきやすいピアニスト。粗野だが気のいい運転手。
立場や人種を超えた友情。
クソみたいな世界で、自分の居場所を築く。
寓話としてはよくできた話ではある。
ただまあ、現実は、このストーリーほどわかりやすい話ではないようだ。

単純に気のいいおっさんとして描かれる白人の運転手のあり方は「白人の救世主 white savior」の定型ではないのか、という批判。
ドン・シャーリーの描かれ方が、その遺族からみると容認し難く、改変されているという批判。
要するに「孤独でかわいそうなインテリ黒人」に白人が友情を差し伸べた、みたいな図式。

すくなくともこの映画は実話をもとにだいぶ受け止めやすい形に咀嚼しているのは間違いない。
マーケットに受けいれられるためには「白人の救世主」的な存在がないと、大多数である白人に訴求もしないだろうし。

Black Lives Matterが吹き荒れる2010年代後半に、いささかナイーブすぎる題材だよな。
BLMの人たちに喧嘩をうっているととられかねない。
それとも「人種の差を超えて、友情は生まれるんだ」というナイーブすぎる普遍的真理で許されるもの?

* * *

個人的には、モノホンのドン・シャーリーの作品が、どうにも好きになれなかった。
完璧にクラシック畑で育った人のピアノ。それでジャズというか、アメリカンフォークを演奏する。
出自は黒人かもしれないがアフロ・アメリカンのグルーブ感は徹底的にクレンジングされている。
youtu.be
きれいなんだけど、粘りとか、ビートの揺れ方とか、そういうのがね。

いくら医者ドラマとかでストーリがーよくても、ディテールでどうしても受け入れられない、なんてことは大人の世界にはよくある。

今我々はジャズというのをアーカイブからの掘り起こしというStaticなものだととらえているけれど、
こういう激動の時代に生み出された血と汗の活動記録であることを忘れがちやなあ、とは思った。