オススメ度 80点
暴力の「緊張と緩和」度 100点
- 作者:押切 蓮介
- 発売日: 2015/12/24
- メディア: コミック
2009年の時点で『でろでろ』『ゆうやみ特攻隊』『ピコピコ少年』『ぼくと姉とオバケたち』『スキスキ!!アクアリウム』『プピポー!』『ミスミソウ』を8誌で同時連載しており、多忙のため頭がおかしくなりそうだったというが、アシスタントから「先生は元からおかしい」と言われて逆にやる気が出てきたという。(wikipediaより)
僕は押切蓮介の長い読者ではない。Kindleで読み始めたころだから、5年くらい。
文化的に資本の乏しい中流家庭。文学少年でもなくリアルな社会でも抜きん出たところのない冴えない若者時代を送った押切蓮介と清野とおるは、コツコツと自分のスタイルを洗練させ、自分の才能を開花させた。
清野とおるはあくまで世間を軽やかに受け流す作風で、押切はふつふつとたぎる怒りを爆発させる作風で。*1
押切蓮介の作品には、常に怒りがあり、その怒りが、作品に活力と命を吹き込んでいる。
80年代の斜に構えた冷笑文化で育った僕には押切の熱量がまぶしいくらいだ。
『ミスミソウ』も『サユリ』も、その暴力性が色濃くでた作品。
ミスミソウは、田舎に越してきた家族の話。転校してきた子がイジメにあい、いじめがエスカレートし、家に放火されてしまう(放火の実行犯は、いままでいじめられていた子が、いじめの実行犯との共犯感情のあまり暴走するというのが救われない話)家ごと焼かれて家族も死んでしまう。
サユリは、田舎の一戸建てを購入し、越してきた家族の話。シャイニングのようだが謎な理由で一人ずつおかしくなって、死んでゆくという。
理不尽な暴力、逆らえない超自然の力に翻弄される一般人。
崩壊する家族。家族愛は、一見無力であるかのように描写される。
だが、押切作品は、ただ虐げられるだけではなく、反撃するのだ。
規格外の反撃は、主人公に内在していた暴力性であったり、メンターとなるような、力そのものの体現者のような存在によってなされる。
また女性も、こういうストーリーの鍵となる。
女性の説明できない未知なる部分が、押切蓮介の好むモチーフである。もしくは、純粋な暴力性。それこそ刃牙の範馬勇次郎のような。
押切作品ではこのモチーフが執拗に繰り返される。反撃こそが彼のアイデンティティに関わることなんだと思う。村上春樹が、極めて個人的な事情から、同じようなモチーフの作品を生み出し続けているように、押切のこだわりは、多分ここなのだ。
ハイスコア・ガールだけは、そういう暴力性が希薄な作品だと思う。
halfboileddoc.hatenablog.com
『ミスミソウ』『サユリ』は、上位の押切氏得意な暴力描写を「緊張と緩和」を上手にリズムを挟んで描いている。
多分押切氏にとってはあまりストレスのなく量産できた作品なんだと思うね。