半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『雑草はなぜそこに生えているのか』

オススメ度 100点
最終章でさらに追加 150点

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」(井上ひさし

雑草について、あますところなく語り尽くした一冊。

・雑草は「強い」というイメージがあるが、実はそんなに強くはない。特に植物同士の競争には弱い。
・森の中には雑草は生えない。
・雑草が強いのは、草の生えていないところに生え始める「一次遷移」「二次遷移」にて主要な役割を果たす。他の植物に先駆けて生える「パイオニア植物」としての性格をもっている。
・雑草をなくすもっともよい方法は、雑草をとらないこと。雑草をとることは遷移の進行を止めるもしくは元に戻すことなので、雑草にとっては好環境。そのままほうっておくと、他の植物との競争にまけていなくなってしまう(その代わり、その土地は森になってしまう)
・雑草は不良環境下においても種子を残すが、好適環境下においても種子を量産することができる
・黄色い花はアブを受粉のパートナーにしている。紫色の花はミツバチをパートナーにしている(おそらく紫外線を目印にしているのではないか)ミツバチは他の虫よりも、狭い穴に入り、後ずさりする能力に長けている。紫の花がすべて奥まったような構造をしているのは、ミツバチだけが蜜に到達できるように進化している
・西洋タンポポと日本タンポポの違い
帰化雑草の環境はアウェイゲーム。成功している帰化雑草はパイオニア植物の性格をもっているものが多い。
セイタカアワダチソウ(根から毒を出して地域を独占する)→最近は周りの植物も耐性ができ、セイタカアワダチソウの害虫も帰化したため、最近はセイタカアワダチソウの大繁殖は少なくなった
・雑草イネ(非脱粒性の喪失)
・ガウゼの法則(ナンバー1しか生きられない)→ニッチの話

私は植物についてあまり詳しくはないので、こういう新書でも勉強になるなあと思った。
halfboileddoc.hatenablog.com

ちなみに、植物のCSR戦略、一次遷移・二次遷移は、他の分野の理解にも役立ちそうに思った。
植物の成功要素を3つの要素にわけている
C:Competitive=他の植物との競合に強い
S:Stress torelance=ストレス耐性 (乾燥・日照不足・低温などの不適環境に強い)サボテンや高山植物など
R:Ruderal=予測不能な環境の変化に強い

これ、ビジネスの世界とかでも応用できそうな。
例えば大会社のエリート社員は C優位タイプ。中小企業の年収 300万層は、S優位タイプ。
個人事業主フリーランスなどはR優位タイプ。とかね。

また、例えばジャズ文化とかでいうと、東京・大阪などの大都市は植生の遷移が完了した森のようなもの(多様なマーケット)、僕の住んでいる地方都市は、プロの専業ミュージシャンが生存するのはギリギリ厳しい一次遷移直後の草原のようなものか。
地方都市に受け入れられるのは、都会のC優位タイプではなくて、R優位タイプのミュージシャン、ということになるだろうか。

また話は変わるが、学会なども新分野の新興学会と、昔からの学会では、ありようがことなる。例えば、肝臓分野でいうと「肝臓学会」は遷移が進んで森林化した状態であるし「肝がん分子標的治療研究会」などの新興学会は、雑草の生えた草本植物が主体の草原に似ている。
おそらく、古い学会での振る舞い方と、新しい学会での振る舞い方では、その適性が異なると思われる。

みたいな色々なことを考えさせられる本だった。
ちなみに最終章のところで、自分の学者人生とか関わる人とのエピソードがさらりと触れられていたのだが、これが大変によかった。
理系の人は、この章だけでも読む価値あると思います。