半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

オススメ度 100点
じゃあどうしたらいいだろう 度 100点

東大の数学研究の方。
AIに東大の受験をさせる、というプロジェクト。

先日の『暴走する能力主義』の方の知的な文章に比べると、口語でめっちゃわかりやすい文体。

わかりやすい言葉で、流れてくる内容はまあまあシビア。

2011年に始まった、この方のプロジェクト「東ロボくん」。
東ロボくんと名付けた人工知能を我が子のように育て、東大合格を目指すチャレンジをしてきた方。
残念ながら今のAIには東大合格する力はない。シンギュラリティは今の技術の延長線上であれば来ない。
ただし、MARCHレベルの有名私大なら、合格できる偏差値には達している。

今の技術ではAIに真の知性を付与することはできない。

・真の意味でのAIはまだ存在していない。AI技術はある。
・AIは「意味」を判別することができない。特に条件が簡単に限定できない現実の問題は無力(フレーム問題)
・コンピューターのパワーの問題ではなくて、そこそこのサーバを使って五分で解けない問題は、スパコンを使っても地球滅亡の日まで解けない。

今のAIと張り合うレベルの日本の大学というのは、どういうことなんだ?

逆にいうと、MARCH以下の大学の合格なら、文章の意味をとらえる力を有していないAIでも可能。
つまり一定レベル以下の大学合格は、文章の読解能力を必ずしも保証しない。
昔から、企業は大学教育に期待などしていなかった。しかしそれでも大学入試に意味があったのは、大学入試という学歴が、普遍的な品質保証(昨日の『暴走する能力主義』にでてくる「知的貨幣」というやつ)になっていたから。
現在、大学入試のスクリーニングだけではほしい人材をさっぱりとれないと企業は実感している。

そこで、基礎的読解力を調査するテスト(RST=Reading Skill Test)を作って試してみた。
(AIに読解力をつけさせるための研究で積み上げ、エラーを分析してきた蓄積を用いて、人間の基礎的読解力を判定するために開発したテストを人間に応用してみた)

結果は惨憺たるものだった…(予想より遥かに低かった)。中学生の半数が、教科書が読めていないと判断せざるを得ないと。

実は計算とか、単純作業のようなドリルのような部分はAIが得意としているので、今後AIに代替されてゆく。
将来もAIに奪われないであろう仕事の領域がこの基礎的読解を必要とする仕事の領域なのに、この部分の能力を有しているのは、多分半分以下だ、ということ。

うーん。
ただし、論理的に言葉を使う能力、RSTの得点は、後天的にも訓練で伸ばすことはできるかもしれない、というフォローがなされていた。

* * *

これは、『もっと言ってはいけない』のデータとも一部合致するし、実際に自分の職場(医療系・介護系なので、偏差値の低めな専門職の集合体である。MARCH以下の偏差値の場合には、そういう基礎的読解力の保証のない人間が多数含まれてもおかしくない)での言語理解をみている限り、基礎的な読解力と論理構成力に問題がある職員がかなりいると感じていた。

もっと言ってはいけない (新潮新書)

もっと言ってはいけない (新潮新書)

  • 作者:橘 玲
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 新書

Twitterとかをやっていても、クソリプといわれるような、たかが140文字の内容さえも理解していないやりとりが、世の中には横溢している。確かに世の中の5割の人間は、言葉を適切に理解する能力さえ無いと考えざるを得ないかも。
そんな人でもTwitterでは平等に言論を戦わせることができる。民主主義の良さでもあり、悪いところなのかもしれない。

医学部の入試や医師国家試験が難しいとか難しくないとかいう話は昔からある。
おそらく、医学部の入試を難しくすることによって、医師としての情報処理に最低限必要なの基礎的読解力を有するものしかエントリーしないように制限してるんだろうなと思った。
そういった能力を有する人間にとっては、医学部の入試も国家試験も、別に、難しくはない。(大量暗記なので面倒ではあるけれども)
ただ、医学部受験や国試浪人の多浪生は、そういう能力に欠けている。
SASUKEの「そそり立つ壁」と同じで、一定の体力がなければ、あれは絶対超えられない。
そういう意味では、医学部は別に難しくはない。しかし能力を満たさない人にとっては絶望的に難しいとは思う。
システム論を言えば、医学部受験の多浪は、ま、好きにおやんなさい、だ。しかし国試の多浪はシステムエラーだ。国試に受かる能力のないものをそもそも医学部に入学させた方が悪い。