半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『たとえる技術』

オススメ度 70点
往年の感はある度 70点

たとえる技術 (新潮文庫)

たとえる技術 (新潮文庫)

  • 作者:せきしろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/09/28
  • メディア: 文庫

気がつくと一世代経っているんだなあ。僕がまだ若い頃、SPA!の「バカはサイレンで泣く」などで名を馳せたせきしろ氏の作品。

halfboileddoc.hatenablog.com

8年前に「去年 ルノアールで」を読んだことがある。
寸鉄家とでもいいましょうか。一言の鋭さに定評のあるせきしろ氏が、「たとえ方」を指南している本。
とはいえ、ビジネス本のように、論理的に方法論を示しているわけではなく、あくまでそのやり方は点描的でしかない。
その意味では、たとえ方の指南としては、野村克也の野球論というよりは長嶋さんっぽいコーチングだ。

Aに似たBという基本的な例え方だけではなく、似た動きのもの(動詞からのアプローチ)、似た色のもの、言葉を連想させる方法。
事実→史実→昔話→神話、アイドル→女性→人間→動物→生物→地球と、対象の属性をどんどん抽象化させてゆき、連想する(これは大喜利などでも有効だ)、自分の得意分野を利用する、学校など共通認識の多いものは使いやすい。

そんな感じで、技術論そのものは、堅牢な論理性があるわけではない。
また、言語学的なアプローチではないので、暗喩と直喩の違いとか、それ以外の換喩・提喩などを示すわけでもない。
まあ、だからこそ、実践的である、とは言えるのだが。

ま、やり方=How to というのを楽しむというよりは、そうやって分類されたせきしろ氏の作品を楽しむのも目的のような感じはある。

* * *

実は私は「例え話」というのがかなり好きだ。
外来とか入院患者さんに対して病気の説明をする時とかに、例えばなしの不正確さはしりつつ、イメージの伝わりやすさから、その人のバックグラウンドを類推しつつ、例えばなしを出してゆく。
僕のやり方の場合は、形容詞的な使い方ではなくて、説明すべき構造が共通なものを探してくるという作業になる。

例えば、「敗血症」という状態を説明する場合、「本来は秩序だって鎮圧されていた状態が弱体化し、望ましくない外敵勢力の侵入をついに阻みきなくなった状態。無秩序な状態に陥り、外敵の跳梁跋扈を許している状態」と読み換えると、

ローマ帝国の末期
・昭和20年敗戦直前の制空権・制海権を奪われた大日本帝国
・治安の悪い国(多くは発展途上国
スクールウォーズ、もしくは学級崩壊
北斗の拳
・マッドマックス

 みたいな例が浮かぶ。
 まあそれを、説明する人の年齢や性別・バックグラウンドの知識に沿ってチョイスしている。

構造の単純化されたモチーフが僕の記憶の中にたくさん構造化モチーフとともにストックされている。
それを探し出してくる、という作業を無意識のうちにしているんだと思う。

おそらくこれは、ジャズのコード進行の複雑化の技法などにちょっと近い。
フレーズを記憶する際に、バックグラウンドのコードを一緒に紐づけておくと、取り出しやすいのだ。