半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『「自己啓発」は私を啓発しない』

オススメ度 70点
この人の盲従度スゴイ度 100点

「自己啓発」は私を啓発しない (マイナビ新書)

「自己啓発」は私を啓発しない (マイナビ新書)

かなり痛快な本だった。

マグロ漁船仕事術、という本をつい最近読んだ。
halfboileddoc.hatenablog.com

これはなかなかの良書で、あまりビジネス本に興味がない人でもたやすく読める。
その理由は、具体的な部分と抽象的な部分のブレンドがうまいから、と思っていた。
もちろん、乗船したマグロ漁船の船長が、日本でも有数にすぐれた船長だったから、だというのもある。

それにしても、ちょっと筆者の方は明晰すぎるんじゃないか?
と思ったのだが、それには理由があった。

* * *
この本は、実録「裏『マグロ漁船仕事術』ができるまで」みたいな本だ。

実はこの方、今の『マグロ漁船仕事術』というコンテンツを得て花形の著者・講演者になるまでには、そうとうしょっぱい下積み時代があった。しかも、下積みというか、積み上げてどうこうなるわけではない、迷走の時代。

マグロ漁船仕事術ではさらりとしか触れていなかったのだが、この本の前半の主人公は、主人公の職場のパワハラ上司だ。
若干昭和感ただようパワハラ。おそらく著者の斎藤氏はくみしやすしととらえられたのか、マウンティングと、自分のいうことをきかせる道具として取り扱われてしまう。尊大な自我は、必然的に部下の人格を軽視する言動の数々を引き起こす。

「死ね!」という言葉は朝のあいさつのようなもので、1日1回は聞かされる言葉

だったっていうんですからね…

斎藤氏はこの職場環境に適応すべく、自己啓発セミナーに通いまくる。
「若い頃は自分に投資すべし」みたいなアドバイスを真に受けて、年収200-300万円のころから、10万円以上の自己啓発セミナーを何個か同時並行で受ける日々。計600万以上を自己啓発セミナーにつぎこんだという。

いや、これ「素直」…というか、ちょっと素直すぎない?

おそらく、この手の詐欺まがいの自己啓発セミナーには「カモのリスト」として掲載されていたのは想像に難くない。
ただ、上司のパワハラもやまないし、それに対抗するすべもなかった。

コミュニケーションというものは、最終的には相手次第だからなのだと思います。相変わらず朝から「お前、まだ生きてたんだ」と見下す目で笑われ、夜には飲みに連れていかれて3〜4時間の説教をされ、おまけに「今日も俺はお前に仕事ってもんを教えたんだから、お前が払っておけ」といわれ、飲み代まで払わされる生活が続いていたのです。

その後、うつ状態となり会社を休職することに(当たり前だ)。

さて、上司のさらに上司に実態がバレて、部下への指揮命令権がはずされて、この事態は突然終焉を迎える。
筆者の自己啓発セミナーとかの努力は関係なかった。

でも、転職しようと思う。そして転職成功セミナーを受講する。
その合間に、講師としてデビュー、異業種交流会、ネットワークビジネスの世界にも足を踏み入れる。
自主開催のセミナーも開いてみる。みたいな、自己啓発セミナーのセミプロみたいな感じになってゆく日々。

職場では、上司が抜けた穴をうめろと言われてリーダー的な地位についたりする。
コミュニケーション・セミナーとかで培ったスキルを駆使して部署内の人間関係をまとめようとして、ウザがられたりする。
(本心で、「他人を操りたい」という欲望が自分にあることをおそらく同僚に喝破されていたからだと思う、と述懐している)
そして会社の方針に下手に逆らったために、疎まれる。
しかも、これもセミナーで培った労務知識かなんかを振りかざして業務命令に逆らったために、こじれて自主退職への道へ。

行動力だけはすごいよね、この人。
でも後半のくだりはイタタタタ……

自己啓発セミナーで、知識を取り入れて、それを野放図に使ってしまうと、いびつな成長になるのかもしれない。
少なくとも、職場での成長の予測範囲で得られるスキルを飛び越えたスキルを身に着けることができるから。
でも、それをうまく自分の仕事に活かすには、賢察さが必要なのだろうなと思わされた。
禁断の魔法を手に入れてしまった若い魔法使いの失敗のようだ。ゲド戦記一巻だ。

ということで、コンサルタントして食っていくしかない道に追い込まれる筆者。

ただ、この人がすごかったのは、こういうイタタな経験に終わらず、パワハラ上司の思いつきでマグロ漁船に乗せられちゃったエピソードや、自己啓発セミナーやビジネスコンサルティングの講座で習ったことを生かして自分なりに世界に発信できるコンテンツを作り上げられたことだ。

ただ、ほんと、必然的にあの本がかかれたわけではなく、ほんと人生綱渡りだったんだなあと思う。
この人の人生、絶対追体験したくない。
人の3倍くらい辛い目にあっていると思う。

それはさておき、自己啓発セミナーに対するこの人なりの総括はみるべきものがあった。