半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

映画『Time Remembered』

Time Remembered: Life & Music of Bill Evans [DVD]

Time Remembered: Life & Music of Bill Evans [DVD]

Bill Evansの一生を映像・音楽とともに追いかけた映画。
そもそも制作が2015年なので、なんで今年日本で公開されたのかはよくわからない。

単館上映に近い配給だったので、たまたま時間があいていた29日の午前、渋谷Uplinkにて見てきました。

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渋谷Uplink 「奥渋」と言われる渋谷の奥の方にある。
渋谷Uplink、私は初めて行ったのですが(というか基本的に映画見に行かないので)60席で、いわゆる映画館らしい造りではなかった。

音響も映画館にありがちなドルビーサラウンドばしばし効いているところではなく、小学校の教室くらいのスペースのライブ会場みたいなところ(ステージの上手にはアップライトのピアノが置いてあった)に、カフェとかによく置いてある椅子を並べ、一応「映画館」にしている風情。

大抵映画館の最前列はスクリーンを見上げる形になり、首が疲れる。
けど、この映画館では、スクリーンはそれほど上の角度を見上げるようにはならない。
しかも椅子は、一列目だけニーチェアで、多分座りやすい。
今度来ることがあればぜひ一列目にしよう。


* * *

とりあえず、ジャズも30年くらいやってる自分は、ジャズ批評の"Bill Evans"も持っているし、一生のあらましは僕もよく知っていた。
音楽的な部分については、好きなミュージシャンでもあり、ヴィレッジバンガードの4部作の経緯なども、まあまあ詳しいつもり。

ジャズ批評 別冊 ビル・エヴァンス

ジャズ批評 別冊 ビル・エヴァンス


ただ、映画は、音楽そのものについての深い解説は少なく、人間Evansのあゆみ、についての話が多かった。
兄弟の話、つきあっていた女の話、ヘロインの話、など、など。

キャリアの初期に、ある種の極点に到達してしまったミュージシャンの悲劇、というべきなのだろうか?
しかしラファロと共作した4部作時代さえ、すでにひどい麻薬中毒になっていた。
Bill Evansの軌跡をみれば、「人生設計」という言葉がこれほど似合わない人生もあるまい。
おそらく、本人は一週間程度の時間感覚でしか生きていなかったんじゃないか。
マネージャーでさえ1年程度のスパンでしかスケジュールを設計できなかったのではないだろうか。
曲が溜まったら、調子がよかったらレコーディングをする。その繰り返しだ。

だからこそBill Evansの後半生は、作品の完成度としてはそんなに悪くないものの、どことなく精彩を欠くように感じられてしまうのだろう。要するに、作品に「作者が創作する内発性」を感じられないのだ。
そしてそれは伝記を見通しても、やはり変わらない。

それで、できた作品がどれも一定の水準をクリアしている、のも皮肉な話だ。


以下若干ネタバレあり。

お兄さんが統合失調症を発症し、銃で自殺をしてしまい、同年ビルも死ぬ。
兄弟の絆は強かったんだろうとは思うが、あのBill Evansに対して、兄は本業があるとはいえ、ローカルミュージシャンに止まっているストレスや蹉跌はなかったんだろうかとは思った。仲の良い兄弟でお兄さんはBill Evansが世界的なミュージシャンになることを誇りに思っていたとは思うが、ミュージシャンはエゴイスティックなものであるのだ。

また、10年つれそった内縁の妻を切って(別れを告げて内縁の妻は電車に飛び込んで死ぬ)、どっかのウェイトレスと再婚(それも妻の死の二ヶ月後)。43歳と27歳。
というビルエヴァンスのクズ男っぷり!

まあね、そりゃあわかるよ。僕も44歳だもの。
おっさんが若い子とつきあっちゃうと、浮かれちゃうのはわかる。
LEONとかに出てそうな若作りで満面の笑顔、イエーイ!みたいな感じの浮かれてイタイおじさんみたいなBill Evansはかなりあかんやつ。

ま、麻薬は多分良心回路みたいなやつを壊すんでしょうな。
麻薬あかん。

あと、回想シーンに出てくる、禿頭でサングラスのおっさんかっこええな、と思ったらPaul Motianだった。
あのサングラス欲しいな。

Bill Evans: Time Remembered – Official Trailer

* * *

Bill Evansでどれが一番好きか、というと、まあラファロの4部作ですが、それ以外なら、

アイ・ウィル・セイ・グッドバイ+2

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エムパシー

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のあたりが好きです。

アリス・イン・ワンダーランド(紙ジャケット仕様)

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David HazeltineのBill Evansトリュビュートアルバムも、いいですね。個人的には愛聴しています。