半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『大戦略論』ジョン・ルイス・ギャディス

オススメ度 90点
日本人には苦手な常識を前提とするので度 60点

大戦略論

大戦略論

ちょっと難解過ぎた。

大戦略」というと、日本では古典的コンピューターシミュレーションゲーム大戦略」がある。
システムソフトでしたっけ?

大戦略」というとあれのイメージだよな。
(厳密にいうとゲームの「大戦略」は戦術ゲームに過ぎないと思う)

この本は、その「大戦略」ではなく、「国家戦略」とでもいうべき、国際情勢の中での方針のたてかた、とかそういうものに関するお話。

よくできた本だし、この手の本の内容からすれば簡潔にまとまっているとは思う。
それでも正直、読むのに結構時間がかかった。
アメリカ独立戦争時の大統領や、南北戦争の時のリンカーンクラウゼヴィッツトルストイペリクレスとツキディデス、
エリザベス・フェリペ二世など、例に出されている人たちが、我々にとってはやや馴染みがない部分が多い。
西洋で、リベラルアーツとして当然修められているべき西洋史が知識の前提にあるため、日本人にとってはいささか読みにくい。
(逆に言えば、内容が難解すぎる、ということはない。ただし、訳文の常で、文体もやや固い)

本の主題は「大戦略」をうまく導くにはキツネとハリネズミ的な考え方のバランスが大事、ということ。
キツネはたくさんのことを知っているが、ハリネズミは大きいことを一つだけ知っている。
キツネとは、つまり、雑多なデータを理論化せず集めて、現実に近づける思考法。
ハリネズミは、つまりすべてのことをたった一つの構想あるいは体系に関連付ける思考法。
簡単に言えば、キツネは帰納法的な考え方で、ハリネズミ演繹法的な考え方だ。
少し意味は変わるけれど、タテマエとホンネ、といってもいいかもしれない。
キツネ的な思考法の方が、データから離れない分近視眼的な予測は正確である。だが、現状追認でもあるので、場当たり的でもあり、中長期的な方針を立てたりするには向いていない。
ハリネズミ的な思考は、目的や目標を定めやすい。が、そこに至るまでの実行可能性や、現実的な制約からおうおうにして乖離する危険性を孕む。
キツネ的な思考とハリネズミ的な思考は、本来相容れないものだが、この相反する二つの思考を同時に持ちつつ、しかもきちんと働く知性が、大戦略には不可欠である、という話。

はっきりしているのは、
「キレイゴト」だけでは物事は立ち行かず、日本的な語彙でいう「硬軟あわせた立ち居振る舞い」さらにいえば「清濁をあわせのんだ」行動が必要ということになる。

具体例として、リンカーンや、チャーチルの戦略などを例示している。

かなりスケールは落ちるけど、
類書としては「戦略の本質」が、意思決定に至るまでのプロセスを例解していて、読み味は似ているかもしれない。

戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)

戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)

これはこれでいい本ですよ。