半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ゲレクシス』古谷実

ゲレクシス(1) (イブニングKC)

ゲレクシス(1) (イブニングKC)

ゲレクシス(2)<完> (イブニングKC)

ゲレクシス(2)<完> (イブニングKC)

咀嚼しきっていない感があるなあというのが、素直な読後感。

古谷実は「稲中卓球部」以降、私小説文学の奇形とでもいうべき、日常と非日常性のあわいの、非常に文学的な部分をきちんと描ける作家として、独自の進化を遂げた。

クスリと笑える部分もあるが、何とも言えない気持ちになり、なんかとてつもないところへ連れて行かれた感が味わえる、ある意味「毒」のある作風になっている。いがらしみきおの方向性の変化にも似ているような気がする。ゲレクシスもその系譜。

今回は、バームクーヘン専門店を営む独身店長が主人公で、バイトに古谷実的登場人物の、かわいい子がいる*1、という、古谷的予定調和的な構成から、どのように物語が始まるのだろうと思わせて、
かなり非日常な状況に、連続性もなく変異し、そして、それも、唐突に終わる。

破調・そして破調の連続で、???が多い。

ストーリーテリングという意味では、破綻しているし、それゆえに長期連載にはならなかった。
しかし、読後の独特な感じとしては、定向進化を遂げた、ともいえる。

たしかに、読者は古谷実的世界の毒に慣れつつある。
数巻の連載を費やして、狂った世界を描いても、もはや読者の受ける刺激は逓減しているだろう。

今回の話は、そういう予定調和を崩したかったのか、それとも僕らは古谷実作家本人の乱調に立ち会ったのか、それは僕にはわからない。
でもそうやって、どんな作品でもある種の驚きをもって受け止められるということは、ある種成功しているのかもしれないな。

*1:古谷描く女性は、なんか魅力的だ。ファムファタル感があるというか、自分が童貞のころ女性に感じていた手の届かない感をきちんと描けるからだろうか