半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『アレクサンドロス』『イエス』安彦良和

安彦良和ガンダムのキャラクターデザインで名を馳せた人。
最近は「Gundam the Origin」で1年戦争前後のいわゆる「ファーストガンダム」の世界をリライトした。
これは僕も読みました。
アニメ版ガンダムでは駆け足だった余白を丁寧に描写していて、ファーストガンダムの世界をいきいきと活写していた。

* * *

で、安彦のそんなに売れていない時期に「歴史もの」とでもいうべき一連の著作がある。『アレクサンドロス』はアレキサンダー大王の、『イエス』は、キリストについて描かれた作品。なんかで紹介されて読んでみました。

改めて見ると、この人、めちゃめちゃ絵がうまいよなと思う。
アニメっぽい漫画のタッチと、立体のデッサンのうまさが両立した絵。
登場人物の臨在感がすごい。

アレクサンドロス』は、アレキサンダー大王門下のリュシマコスが主人公というか狂言回し。無邪気な天才、野放図でもあり、アルコールに溺れ、人と思考回路の違う天然な天才アレキサンダー大王の足跡を、駆け足で描写する。

アレキサンダー大王を題材に取り上げた漫画としては『ヒストリエ』が有名だが、2019年の現在でも、まだまだカイロネイアの戦いのあと話が進んでいない。
それに比べて安彦良和の筆は、とにかく速い。
一巻で、一生を駆け抜けてしまう。

だがわしは知っているぞ!
あの人は決して神ではなかった
人間だ!
たとい半分といえども神なんかではなかった!
欠点の多い
大酒呑みの
自惚れ屋で傷つきやすい
愛情が豊かで酷薄な
誇り高い
そして
誰よりも勇敢な
マケドニア生まれの良い青年だった!

アレクサンダー大王は33歳で急逝してしまうので、伝記としても未完感が強いけれども、読み終わって、読み足りない感じがするのは、そのせいだろうか。

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『イエス』は、キリストの足跡を辿った作品。
これも一巻で終わり、さらりと読める。
やはり安彦良和のうまさを感じるばかり。
絵にしても漫画としてのコマ割り、ストーリーテリングにしても、隙がない。

ちなみにこの作品に関してはイエスの(無名の)弟子ジョシュアが、師であるイエス・キリストを振り返っている体裁をとっているのであるが、
ジョシュア、ルックスと独白のウジウジぶりはまるでアムロで、イエス・キリストは、ブライト艦長
アムロブライト艦長が別の舞台で(手塚治虫的出演システムで)作劇をしているかのよう。

ともあれ、最後の、イエスの復活に関する安彦の創作は、実に見事。