半熟三昧(Half-boiled doctorのアウトプット Blog)

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『住友銀行秘史』国重淳史

住友銀行秘史

住友銀行秘史

Kindle版はこちら(私はコチラで購入)。
住友銀行秘史

住友銀行秘史

なんかのブックキュレーションサイトで紹介されていたので買った。
イトマン事件のあたりのモヤモヤ、ドロドロした話を、銀行内の優秀な中級職の手によって記録された随想録。
うーん「リアル半沢直樹シリーズ」みたいに思われる。事実は小説よりも奇なり。いや、生々しさと前時代さは、「不毛地帯」かもしれない。私は『金融腐食列島』を読んでいないが、あれもその手の生臭い話なんだろうと思うが、とにかく、むちゃくちゃ面白い。

頭のいい人の叙述というのは、メモの断片だけだけでも、やはりそうとしれる。
すぐれた棋譜を見た際の知的興奮というか。『ガリア戦記』のような面白さだと思う。


著者の国重さんは、実力では皆に一目置かれるバンカーで、同期の中では最も早く役員になるなど行員出世レースではトップを走っていたが、結局頭取にはならず銀行人生を終えた。
その後紆余曲折のあと楽天の副会長になるも女性問題で職務を全うせず不本意な辞め方をすることになる。巷の噂では、女性関係には色々問題があった、ということだった。バンカーとして大成しなかったのも、そういう部分もあったのかもしれない。

だが、そういう自分に関するところは、当時の記録からも巧みにクレンジングされている。
つまりこの作品は「信用できない語り手」による叙述トリックの部分がある。


いまこの歳になって、若い頃の記録を振り返って述懐するに…ということは、ある種、自分の人生の総括をする、ということだ。
しかしこの本からは、その時の、そしてその後の自分の人生に対する反省とか、そういう自省は微塵も見られない。正直にいって自省をしたような葛藤さえもないように思われる。

そもそも、この国重さん、彼が行動し、退陣に追い込んだ「住友銀行天皇」とも称された樋口頭取の秘書と結婚しているんである。当然ながら、情報の出所として、彼女の存在も多分にあっただろうが、この本にはその事実は一切書かれてはいない。

だから、この本は、晩年期に全てのことを正直に書いて自分の仕事人生を後世の批評に耐えうるべく記録するという「人生の総括本」ではなく「まだまだやったるでー。そや、昔の俺の武勇伝を聴かせてやろう」という趣きの本で、その息の生臭さには、いささか鼻じらむところがある。

こうした「元気中高年」といった生臭オヤジは、まあまあ巷にいる。こうした人々が日本経済を引っ張って行き、今後も引っ張っていくであろうことは確かであるが、あまり接したくないタイプではあるなと思った。