- 作者: 藤沢周平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 32回
- この商品を含むブログ (73件) を見る
池波正太郎・司馬遼太郎はがっつり読んでいる私ですが、実は藤沢周平は未体験ゾーン。
今回初めて自分で買って藤沢周平の門をたたく事にしました(今までも、借りたり、図書みたいなところで読んだことはあるのだけれど)。これでまた老後の楽しみの門を一つあけてしまった。
9月 ベルリンの学会に行く機上で読みました。
あー……面白い。
しみじみと面白いです。
うまい料理をただただ食っているように、批評的な観点はまったく脇に置いて、ごくごくとテキストを飲み干してしまいました。外国に居るという特殊な環境がさらに心情的な共感を増すのかもしれませんが、帰国するまで何度も読み返してしまいました。
「必殺剣」シリーズといいますか、必殺技の剣術を持つ剣士達の連作短編。
海坂藩という架空の藩(おそらく庄内藩っぽいところがモデル)での、サラリーマン剣士みたいな人達の日常が、ささいなことをきっかけにほころびて、いろいろあって剣をとらずにはおれないシチュエーションに追い込まれる。
ああ、なんて日本的な世界。なんて陰湿な閉鎖社会。
コミュニティーの描写のはしばしに我々の社会に共通する「狭さ」がありますね。まあ、よく考えたらサラリーマン経験のある藤沢氏が、自分のサラリーマン体験を「宮仕え」という武士の社会に引き写したわけですから、江戸時代の武士のメンタリティが必ずしもこの小説の登場人物と同じ、ということは証明されない。江戸時代の日記文学とかカラは、かなり似ているんじゃないか、とは思うけれども。
そして日常を破る必殺技。……これはある種スーパーヒーローものだな。
必殺技が、本当に状況を打開できるツールとして役立つことはむしろ少なくて、むしろ「チェーホフの銃」のようなもので、必殺技というものを持っていたら、自分の行動の選択肢がその必殺技に引きずられてしまう弊害を戒めているようにさえ思える。
あ、ちなみに「藤沢周平よまなくちゃ」と思った動機は、くだんの女医さんの話だけじゃなくて、前項にあげた、2−3年前に買い今回再読した、関川夏央著『おじさんはなぜ時代小説が好きか』も一因であります。熱のこもった紹介をみると、本屋でみかけて買うきっかけになりますね。