- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/05/01
- メディア: 文庫
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小説にはいろいろなスタイルがあって、例えば伊坂幸太郎のように、イベントが次々と起こるジェットコースターというか、イベントの玉突き事故=ルーブ・ゴールドバーグ・マシン(つまり、ピタゴラスイッチみたいなもの)で、躍動感を出すようなタイプもある。
この小説はその逆で、執拗なまでに流れがない。スーパーストップモーションのカメラのように、切り取られたある瞬間を執拗なまでに描写し、それに過去の回想をフラッシュバックとして点在させることにより、時間の流れの代替としている。
「東京大学物語」で、延々長い脳内妄想が続いたあとに(0.7秒)とか実際の経過時間が書かれていたが、あれに近いといえばわかってもらえるだろうか。
たしかに実際の我々の思考回路はこういう形態をとる。
これはこれで、一つのリアリティだと思う。
もっとも、私は文学、文体について、ものすごく詳しくはないので、こういう文体はそこまでイノベーティブなものでもないのかもしれない。が、今回村上龍は意図的にそういうモードで書いているのは確かだ。例えばMiles Davisの"Kind of Blue"と同じように、そういう「モード」を一貫させて書かれた短篇集、ということなのだろう。
もっとも、話の動かなさと筆致のしつこさに多少辟易するところもありました。一つのスタイルって、魅力的だけど、飽きが来るといえば飽きがきますよね。
もともとは留学むけ雑誌に連載されたもので、どこか他のところにいかなくてはならない登場人物、というのが共通しているようです。登場人物の閉塞感を表すのに、この文体も一役買っているように思いました。