- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/08/04
- メディア: 文庫
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薄い本。旅先で購入。
旅順攻略の拙攻および明治天皇殉死で有名な乃木閣下こと乃木希典の一生。小説というか、伝記的随筆というか、そういうもの。
司馬は今ひとつ感情移入していない。乃木閣下の精神論というものは司馬遼太郎の最も好まないところなので、仕方がないのだろう。
司馬遼太郎は、考証を綿密に行う作家だが(司馬遼太郎が題材に採り上げる前に、入手可能な資料はすべて収集することは有名な話で、司馬の連載中には、その分野の古書が神保町から払底するという逸話もあるくらい)、後代の我々は、考証の堅牢さのあまり、司馬の小説が、小説=フィクションであることを時に忘れることさえある。
とはいえ、司馬の著作は、本人も言っているようだが、やはりフィクションだ。司馬の主観的好悪が、時として人格描写においてかなり顕著にでる。乃木は司馬に好かれていないことが、この本からはありありとわかる。まあ、正直にいうと、僕もそれほど好きなタイプではないが、憎めないいじましさがあるようにも思うのだ。ちなみに児玉源太郎は、明らかに司馬の好きなタイプだ。
乃木は、司馬の冷徹な目でみると、おっちょこちょいの道化だ。
逆に、乃木をそのような「天然さん」として扱わず、「厳父」のようなイメージで取り扱ったところに昭和軍部の悲劇はあるように思うが、これは必ずしも乃木だけの罪ではあるまい。と、フィクションを叩き台にして議論をすると、ろくな事にならない。真相はどうだったのだろう。
皮肉なことに、現在の司馬遼太郎の著作の扱われ方は、昭和初期の乃木の実像と虚像との解離に近い危険さがあるように思うが、どうか。
(と、司馬の作品の後は、どうしても司馬っぽい感じに、なる。ブルースリーの映画をみた後、奇声を発したくなるように)。