半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

梨木香歩 『春になったら苺を摘みに』

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

(単行本:asin:4104299022)
 梨木女史の物語には、何かエーテル的なものがただよっているような、対象物をあいまいにするような空気があるのですが、このエッセイ集にはそういう空気感が全くありません。梨木の物語を間接照明のインテリアとすれば、このエッセイは同じ室内を蛍光灯の白色光で照らしているような感じがします。非常にクリアなんですよ。かといって男の散文とも違って、理が勝ちすぎているわけでもない。
 悲観的なわけでもなく、楽観的すぎることもなく、えらく淡々としています。
 一つ言えるのは、性急な価値判断を下さないというのがこの方の人生の態度には根付いており、才気走った機敏さはない代わりに、ものの見方がとても重厚で、ぶれないということ。
 微分的というよりも積分的、とでもいいましょうか。

こうした彼女の人生の態度は、滞英中の寄宿先の女主人であるウェスト夫人に大きく影響されているようです。
本文中にあった「理解はできないけど、受け入れる」というウェスト夫人の言葉が印象的でした。