半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

梨木香歩『からくりからくさ』

からくりからくさ (新潮文庫)

からくりからくさ (新潮文庫)

 おそらく、梨木作品の中でこれが、一番リアル梨木世界と近いんではなかろうかと思わせる作品。
 この作品を中心におくと、梨木ワールドを俯瞰しやすいような気がする。例えば、家守奇譚とか、村田エフェンディ滞土録にしても。この作品に、いろいろな作品に見受けられる梨木エッセンスが、もっとも素直にあらわれているような気がする。この作品を補助線にして読むと、他の作品が、大変わかりやすい。

 梨木作品におけるチャンギー空港だと、そういうわけです。変にたとえましたが。

 クラフトマン志向の四人の女子大生が一つ屋根に住む。もの凄く簡単に記号をいうと、『天然生活』とか『Ku:nel』とか、そんな感じの情景をもとに、100年もの長きにわたって伏流する壮大なドラマ。

 なんといいますか、非常によい読後感なんですよ。もやもやした部分と、すっきりした部分とが混在したなんとも言えない気持ちにさせられます。

 但し、この作者の視点は普遍的なものではない。性的なものが欠如していること男性のキャラクターがどうも薄っぺらく見えてしまう点では、読者を選ぶかもしれない。
 性愛的な話もないことはないのだが、なんというか、この人の書く恋愛はとにかく植物的な匂いがする。