- 作者: ティム・オブライエン,Tim O'Brien,村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/02/01
- メディア: 文庫
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村上の訳す本には(勿論彼の文章の力もあるだろうが)どれもはずれがない。彼は翻訳したい本しか翻訳しない、つまり趣味として翻訳家をしているとしか見受けられないわけで、彼の翻訳のセレクションは実に「おいしい」。尤も、極言すれば文学を主戦場とする優れた翻訳家は、おしなべて趣味的な翻訳家であるといえなくもないが。
ベトナム戦争の話。ヒロイックなことも無く、かといっていわゆる反戦史観のような「戦争の悲惨さ」のようなスタンスでもなく、淡々と戦争の「なさけなさ」が書かれている。そう、この本に書かれる「戦争」は、とても情けない。
昔『ぼのぼの』で、アライグマ君が言っていた「もそもそ飯」のような気分、と言えばいいだろうか。
いつだったかクズリが川で溺れているのを助けたことがあってな
そりゃあ もう みんなホメてくれたよ
だけど 次の日はひとりで もそもそメシを喰ってたのさ
だから色が変わる岩を見つけたって同じだよ
そりゃあ みんな驚くだろう
だけど また もそもそメシを喰うんだよ
だからよ 色の変わる石だのなんだのは もういいんだよ
オレたちは バカで もそもそメシを喰うしかないのさ
(『ぼのぼの』10巻より)
生と死のコントラストがくっきりしているが、戦場とはいえ大半は退屈な日常。逆に、どんな非日常的な空間であれ、我々はそこで過ごす限りそれは日常になってゆく。
例えば救急医療とかやっているのも同じように文学に出来ないだろうかと思ったりもしているのです。