- 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1987/10/01
- メディア: 文庫
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同じ世界観を舞台に書かれた中編3編。
舞台は割と古典的な宇宙連邦。辺境の『連邦基地900』を交錯する、それぞれ別の時代の3つの物語。
いつも思うのだが、彼女の作品では、登場人物達は自己の存在を圧倒的に上回る何かによって、すりつぶされる。この作者の語る物語の中の、無慈悲な運命に翻弄される登場人物達は、たとえばハインラインの物語世界にいるよりも遙かに過酷だ。
そうした酷薄な世界を神の視点で見下ろす作者のなかに、僕はヒューマニズムを越えた透徹さと無慈悲さの二面性を見る。まるでヤヌス神のように。
このような印象を抱かせるストーリーテラーとして、彼女は手塚治虫に似ていると僕はいつも思う。
で、この本も、全編当然そういうハードな話ではあるのだが、いままで読んだティプトリー作品よりもほんのり甘い。まるでバニラ・エッセンスをほんの少しふりかけたように、もしくは糖衣錠のように。まさか挿絵の効果ではあるまい。三編とも「恋」(それは、ひどくゆがめられた形ではあるけれど)の話だからだろうか。
僕がこの本に最初に出会ったのは、多分高校生の時だ。
学生の乗り降りする駅からすぐの、ありふれた書店。そこで、立ち読みをしたのだ。
あの頃は、一話目の『たったひとつの冴えたやりかた』を読んでも、特に響くものがなかったように思う。今、読み終え、この本をきちんと受け止められてよかった。
あのころの僕は恋をしたことがなかった。プライドだけは高い、進学校に通う童貞高校生にとっては、人生はもっと単純なものであったから、こうした物語のもつ玄妙さ咀嚼できなかったのだろう。