- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/09/16
- メディア: ペーパーバック
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本屋に行ったら、恐ろしい勢いで平積みされていた。
これ、「村上春樹」ラベルがなければ、そんなに売れるような話でもないように思うが、きっとノーベル賞先物取引だったに違いない。小豆10トン現物支給みたいな、感じになってた。捌ききれるんだろうか……ま、僕は、単行本スルー文庫待ち派の人間なので、喜んで買いましたが。
……なるほどね。
文体や設定など、今までの村上世界とちょっと違うところを感じた。どことなく、ソリッドな感じ。
そういえばこの作品では、飯を作っている場面がなかった。そういうところも今までの村上作品と違う印象を与えるのかも知れない。
文体は三人称、なのかな?いや、三人称というよりは、これは「街」が一人称なのだ。主人公は人間じゃない。2001年宇宙の旅に、HALというコンピューターがいたが、あれが、人間の行動をモニターで監視している視点のように、登場人物の人間の行動は淡々と観察される。
どうして、そのようにこの話が語られなければならなかったのかは僕にはわからないが、もし、登場人物である若い世代に沿うような形で書かれたのであれば、それはいささかリアリティを欠いたものになったんではないかと僕などは思った。だって村上もかれこれ還暦近くなのだ。小説家としての目はそれほど老いはしないが、やはり現実の若者との乖離は否定出来ないと思う。(そういう意味では『海辺のカフカ』は大変「不自然」な作品であった)
ところで、なぜ村上春樹はジャズ・トロンボニストに興味を惹かれるんだろうか?
この作品の重要な登場人物として、学生ジャズトロンボニストが出てくる。「トニー滝谷」という作品では主人公の父親は大陸から引き揚げてきたジャズトロンボーン奏者だった。
たかが二人かもしれないが、しかし、村上春樹は昔ジャズ喫茶を経営していた割には、登場人物にジャズミュージシャンを出すことは驚くほど少ないのである。現実には、ジャズプレイヤー全ての楽器の中で、トロンボニストは、はっきり言って多くない。村上作品に登場する、ジャズプレイヤー中のトロンボーン奏者の比率は、いくらなんでも高すぎるのだ。それに、他の作者の文学作品でも、トロンボーン奏者、それもジャズの、なんて滅多にお目にかかれないでしょう。ジャズトロンボニストなんて、明らかに絶滅危惧種なんですよ。
明らかに村上は、ジャズ・トロンボーンに、何らかの記号性を見いだしていると僕は思う。
ひと言でいえば、それはある種の存在矛盾のイコンではないかと思うのだが、それはまた、座を別にして考えてみたい。
とりあえず、僕も「よう、今のソロ、よかったね。しみじみしていたよ」と言われるような演奏をしたいと思う。