半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『スウィンギンドラゴンタイガーブギ』

まあ、ジャズおじさんなので、ジャズ漫画があったらとりあえず読みます。

しかし、これは 敗戦後の音楽=ジャズってだけで、僕らが思い描いているジャズとはちょっと違うかも。
まあ戦争中いろいろな目に会い、傷をおった人たちが、それぞれ別の思いもあるけれどもバンドを組んで音楽をやる話。

敗戦後の独特の価値観の倒錯、時宜に適応しているものと適応できないもののギャップともどかしさ。
新しい時代を生きる、みずみずしい話が多いけど、まあ若者なので、主人公の女子とかも、まあ徳が低い煩悩ぶりを見せつけてくれる。(まあ戦後、徳の高い人は餓死してしまう。生きていくのにはしょうがないのかも)

そういうのが、微笑ましくもあり、げんなりする部分でもあり。

米軍キャンプにいたベースのうまい黒人が、朝鮮戦争で負傷してしまうくだりなんかは、なかなかの無情感。

* * *

今のコロナ禍。
塹壕戦のような不自由さが生活についてまわる僕らは、「別の世界」の描写に過度にコミットしてしまうのかもしれない。
それに、この生活の変化に対する適応と不適応とかも、我々が試されているのも、これはこれで戦後の過渡期に重なるところがある。

最近思うけど、ジャズのクオリティとかそういうのも大事だけど、みんなで音楽という成果物を作り上げて、「合わせる」ところに、価値があるのかもしれないなあと思ったりする。…とか自分が思うのは、やはりコロナ禍の分断で、孤独感を感じているからかもしれない。

『バット・ビューティフル』ジェフ・ダイヤー 訳村上春樹

バット・ビューティフル

バット・ビューティフル

実に久しぶりに紙の本を買う。
最近はほとんどの本をKindleで買うから。

久しぶりの紙の本は、買ったばかりのときに本の中ほどに綴じ込まれている紐を取り出すのにも時間がかかった。
本を持つ手の平の筋肉もやや落ちているのか、長いこと持ち続けると疲れてしまう。*1
しかし、ページをめくろうとして、無意識に指をつつっと滑らせて、スワイプしてしまったのには笑ってしまった。
ちょっと、それはいかんよ!本の虫だった昔の俺に怒られそうだ。

いろんなジャズマンのポートレートを切り取ったようなアンソロジー
レスター・ヤングから話は始まる。
戦後アメリカ音楽の中核を担った音楽、ジャズ。
しかしジャズの担い手たるプレイヤーは、社会の中ではアウトサイダーであり、終わりのないツアーとドラッグ・酒・女、暴力などありとあらゆる快楽の中で生きていた胡散臭い連中であったのだ。

レコードから垣間見える音楽そのものは、十分美しい。
なのに、それを手掛けるミュージシャンの多くは腐臭を放つ汚辱にまみれた人生だったりした。
公民権運動が盛んになる前は、クラブでは拍手喝采を浴びるミュージシャンが、路上では白人警官に小突かれる。

そしてフリージャズ・クロスオーバー期を経て、一旦はそういう形のジャズは絶滅したわけである。

新主流派新伝承派といわれる人たちがそういったジャズをクレンジングし、芸術としてのジャズのパッケージ化に成功した。
いつしかジャズはファイン・アートになった。
若くやる気に満ちたミュージシャンは、何十時間も修練を積み、音大のジャズ科に通ったりしてジャズを習得する。

しかし、歴史が作られた1960年までのアメリカの音楽の現場は、そういうものではなかったはずだ。
この本は、そういう空気感を伝えてくれる。

私はジャズにひとかたならず首を突っ込んでいるせいで、公平には読めない。
聖と俗の潮目のような部分でジャズという音楽が形成されたという歴史的事実は、しばし忘れがちになるので、単純にジャズに憧れる人は、読んだ方がいいんじゃないかと思う。

ジャズマンは早く死ぬのではない。早く年老いる。

寂寞とデカダンスの漂う、危険なジャズの香りを味わいたい人は是非。
多分そんなに読みやすくないのだろうが、村上春樹の訳という点で、やや得をしているかもしれない。

*1:親指と人差し指の間が、ひどく疲れてしまった

Michel Legrand "Legrand Jazz"

オススメ度 70点
曲もスタンダード度 100点

ルグラン・ジャズ~アルファ・プラス

ルグラン・ジャズ~アルファ・プラス

私の書斎は2012年に引っ越しして以来、一度もきちんと片付いたことがない。書庫というか、物置というか、とにかく人様には言えないようなだめな感じなのである。
そんな私も、コロナウイルスがらみで、出張や夜の会合がほぼなくなり、家にいることが多くなった。
自室のスペースがあってよかったと心の底から思っている毎日だが、それにしても片付けをしないと、快適に暮らすことはできない。

そんなこんなで、積み上げていた書類の束を発掘し、捨てる(お気づきだろうが、置いてあるもののほとんどは処分可能なのである。重要な資料も3年置いておいて使わないものは、まず情報としては腐り果てて価値がなくなるからだ)作業を繰り返しているのが毎晩のこと。

そうすると積んでいた書類の束の中にこのCDがあった。
Macの中にリッピングもしていなかったようなので、この度取り上げて聴いてみる。

何年前のものかわからないけど、多分一年くらい前だと思う。
Amazonの購入履歴にもなかったので、多分東京出張の際にDisk Unionでまとめがいしたものの一つだと思う。

1958年の作品。
1958年のJazzと言えば、 Sonny Clarkの " Cool Struttin'"や Blakeyの"Moanin'"、John Coltrane "Blue Train”、Cannonball Adderley "Somethin' Else"。
超名盤が目白押しに発売されている時期だ。

このアルバムは、どちらかというとミドル編成のアレンジ重視のタイプ。
リュクスな商業音楽、という感じ。

フランスの(当時)新進気鋭のミュージシャン ミシェル・ルグランが、新婚旅行をかねて渡米し、ついでに作ったリーダ作、ということらしい。
ルグランは指揮とアレンジに徹し、とにかく今にしてみると超有名どころのミュージシャンが名前を連ねている。
多分、結構金かかっている。
ミュージシャンたちにとっては「ごっつぁん仕事」だったのではないかと想像するが、そのギャラが何グラムの麻薬・コカインになったのかは、今では知る人もいないだろう。

アレンジはこのあとのロック・エイジ、電気音楽が始まって生じるサウンドの多様性を考えると、斬新とまで言えない。
緻密にパズルのピースを埋めていく感じは、良質の前時代音楽感がある。
まあ、端的にいって、ミュージシャンは黒人白人いろいろだが、サウンドは白っぽいと思う。

雰囲気としては、Art Farmerの "Brass Shout"にやや似ている。
アレンジの語法は違えど、中編成という点ではね*1

ブラス・シャウト

ブラス・シャウト

トロンボーンは、Eddie Bertと Jimmy Clevelandが参加していて、端正なBopishなソロを曲中で披露している。

*1:こちらは1959年

MISIA Soul JAZZ best 2020

オススメ度 100点
じゃけー!度 100点

MISIA SOUL JAZZ BEST 2020 (初回生産限定盤A) (Blu-ray Disc付) (特典なし)

MISIA SOUL JAZZ BEST 2020 (初回生産限定盤A) (Blu-ray Disc付) (特典なし)

ちょっと前のTokyo Jazzで話題になったユニット。
今や紅白でトリをつとめる実力派歌手 MISIA
甲南大学出身、渡米しNYで活躍。今やブルーノートと契約し活動する新進気鋭のトランペッター黒田卓也がコラボ。
黒田がMISIAの楽曲をアレンジ。
海外のお仲間をひっさげて、レコーディグ、そしてライブ。

僕は初回限定版でBlu Rayのライブ映像版付のやつを買った。

サウンドは、まーかっこいい。
「なんちゃってジャズ」ではなくて、がっつりジャズ。
ジャズというか、Hip-HopとかR&B、ラテンやサルサの要素もありカラフルなサウンド
2019年時点でのNYの音楽シーンの語法でMISIAの楽曲を再構成。
そりゃそうで、黒田卓也のユニットをそのまま持ってきているような感じのメンバーやからね。
個人的にはトロンボーンのCorey Kingが入っているのが嬉しかった。
 この人、黒田卓也のユニットでも一度観たことがあるけど、すげえなと思ったよ。流麗かつ音が痩せることもなくトロンボーンっぽい音色。

ただ、Everythingは、オリジナルのバージョンは冨田ラボなので、あれはあれはカッコよすぎる。
Evrythingに限っては、オリジナルを凌駕する、とは言わないかな
(今回のもすごくいいんですけどね。逆に、オリジナルに迫るテイクができただけでもすごいことやなあと思うの)

大阪でのライブなのか、黒田卓也にMCをふった時の、黒田さんのMCが、一瞬たどたどしくてなかなかよかったです。
広島出身の大林武司さんも含め、MCいじりが、ややガチャガチャしているかなあとは思った。
でもまあ、ライブの盛り上がりを反映して。ピースフルな空間でした。

しかし、Blu-Rayのライブ映像版は、めちゃノリノリでかっこいいんだけど、
Everythingは、敢えてかなんでか、セットリストに入っていないのよ。

なんたる、お預け感!
うなぎ懐石頼んで、最後にうなぎが出ると思って腹あけて待っているのに、うなぎでてこない。
みたいな感じでした。

”CLNUP4”

CLNUP4

CLNUP4

国内のジャズシーンを見ているリスナーの中で、今や知らない人はいないと思われる、国内でもっともエキサイティングなドラマー、石若駿。
若いのに、すげえ。
(もっというと、石若の育った北海道の地方ジャズ界は、石若だけでなく、かなりレベルの高いジャズマンが育っている。
 北海道すげえ。北の大地すげえ。)

このCDはPENとかそういう物欲雑誌の書評・CD欄に取り上げられていたので購入。
ライブで見たときは、衝撃だったが、CDとかで彼が主体となって作り上げる音楽は、こういう感じなのか…

オリジナル。一曲(Mumbo Jumbo)だけポール・モチアンの曲。これも抽象度の高い曲で、つまりはオールドスクールのジャズファンがほっこり聴ける盤ではないです。

イマドキの複合リズムの流れを汲んで、リズムは複雑。スタンダードはない。メロディラインもコードワークもコンテンポラリー。
激しいのも静かなのも。
コード楽器はギターでTpの入ったワンホーンカルテットだが、僕の普段聴いているジャズ脳では今ひとつ何をやっているのかわからないところも……
わかりやすくはないです。
でもなんか引き込まれるものがあるし、美しいし、ドラマ性もある。

なんかすげえダンスのうまい美人が、僕に何かよくわからない言葉で語りかけているような感じ。
ごめん君が何を言いたいのかはよくわからない。でも、わかりたいし、かっこいいっすねー。
と伝えたいけど、言葉がわからないのでにっこり微笑むしかない。

アルバムの感想としては、そういう感じだ。

『ジャズの「ノリ」を科学する』

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(表紙画像)
オススメ度 100点
ジャズ研は各部一部ずつ購入すべし度 100点

ジャズ演奏者は必見のこの書だといいましょう。
九州でピアニストとして活躍するハイアマチュアの医師の先生の作品。

簡単にいうと、音源をスペクトル分析してベース、ドラム、フロント楽器が、どのようなリズム、テンポで音符を刻んでいるのか(つまり、プレイヤーがどういう風にフレージングしているのか)を数値化した研究。

結果は非常に面白いものだった。

スウィング時代=(Coleman Hawkinsを代表とする)はある完成したイディオムがある。
チャーリーパーカー のリズムの作り方はそれとは全く違う。
レスターヤングは、コールマン・ホーキンスとパーカーの中間。
マイルスは、タイミングとしてはチャーリーパーカーに似ているが、
その後、さらにBirth of the Coolの時代に、それを進化させたリズムを決定づけ、これがハードバップ期のリズムの原型になった。
ということだ。

スウィングでは、裏がレイドバックし、頭拍と裏拍の比率が、2:1とか3:2とかそういう決まった拍子で、グループが作られる。0-0.65-1みたいなタイミングで裏がある。つまり、裏拍と表拍の比率は 65:35という感じ。

ところが、バップでは、頭拍も裏拍も長さとしては、ほぼイーブン。ただし、頭のタイミングは、表拍はベースが鳴ったあと0.2拍後、裏拍は0.7拍 (0-0.2-0.7-1)という格好になっているらしい。

ええー?
実はバップで、表裏がスイングせずイーブンになる、しかしクラシックのイーブンとは確実に異なる、というのは気づいていた。しかし表拍がレイドバックしているとは思わなかった。
(なんとなくモノホンのモノマネでやっていたので)
タイミングとしてはスウィング以上にベースからはレイドバックしているけど、アーティキュレーションはイーブンという演奏の達意が、数値によって示されるとは…

でも確かに、この事実を目にすると、今までの謎が解ける。
 なるほど。なるほど。

ただ、学術論文として批判というか、意見をするとすれば、この研究では、BPMによらず、プレイヤーみは固有のハネ値(表拍・裏拍のポイント)があるという前提で解析しているけれど、裏拍の位置は比率だけではなく、絶対的な時間としても規定しうると思う。つまり、BPMが速い曲と遅い曲では、固有値からずれるはずなのである。その辺りは今後の研究を待ちたいところだ。

ジャズ研は、各部に一つは置いた方がいい。
すごく重要な事実が書かれていると思う。

”Blue Journey” 和田明 布川俊樹

オススメ度 100点
絶対31歳じゃないだろ度 100点

BLUE JOURNEY

BLUE JOURNEY

ジャズギタリストの布川俊樹さんは、私の住んでいる街福山にもよくやってきます。
そんな布川さんが、ある時若いボーカリストを連れてきたのだが、あまりのすごさにぶっとんだ。それが2年前。
ファーストアルバムもよかったが、今回は布川さんとがっちり組んでDuoでアルバムを作り。
レコ発ツアーをして、福山にも8月24日にやってきました。

まあ、すごいのよ、この人。表現も確かだけど、ジャズに必要なアドリブも、対応力もある。ユーモアもある。
歌もうまいしなあ。

stay tune - suchmos 和田 明の0号シリーズ。②

これ、サチモスの Stay Tuneを歌ってるやつですけれども、これでその実力の一端を推し量っていただければ幸いです。
で、和田さんギター弾き語りでもこのように全然できちゃうんだけど、ここに布川さんが絡むと、さらにいいバンドサウンドになる。
付かず離れずのいい距離感である時は完璧なバッキング、ある時にはソリストとして切り込み隊長。

アルバムそのものは、見た目軽い作りですが、いいですよ、これ。オススメ。
ジャズに限らず、Pops, R&Bの曲とかも入っているので、万人にオススメできます。

ぜひライブにも足運んでみてください。