半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『生きて死ぬ私』茂木健一郎

生きて死ぬ私 (ちくま文庫)

生きて死ぬ私 (ちくま文庫)

どんなに広大な風景の中に自分を置いても、結局、私は私の頭蓋骨という狭い空間に閉じ込められた存在にすぎないのだ、そのような重苦しさだった

脳科学者」というよくわからないジャンルのもじゃもじゃなおじさん、茂木健一郎

この人の初期の随想録というような感じの読み物。
エッセイというか、小説の風景描写の素描というか、そういうよくわからない、なんですかね思春期っぽいもわもわっとした文章が続く。
その感じは、いわゆる自然科学方面の人のタッチとは思えないような感じ。

まあ、自然科学系の論文は一定のセオリーにのっとって書くものだ。
極めて修辞学の領分が少ない文章に属する。
一般向けに何かを書こうとした時に、そういう自然科学系の書き方ではなく、自前の読書体験のストックをお手本にものを書かなきゃいけない。

そういう感じの自由さが垣間見えるスタイルではある。
かなりふわりとした人生論の断片のようなもので、本当に不思議な文章。
自然科学者としての自分と、ロマンチストとしての自分が同居している。

まあ、この作品の成功がよくも悪くも後代の彼のキャリアと文筆活動を規定してしまったとも言える。
こっちがうけ、求められるとなれば、こういう文章を量産するわけで、そういうマーケット事情が、彼の研究者としての方向性に影響を与えてしまったのかもしれない。

例えば、ゴッホにしても、なんかよくわからないけど、あっちでぶつかりこっちでぶつかりした挙句が彼の人生を作り、あの作品群を作り出したけれども、例えばオランダで、まあまあうまく立ち回って、幸せな結婚生活を送り、昼間はビジネスマン、日曜日は素人画家、みたいな人生を送った可能性だってある。

別の世界線では茂木氏もサイバネティクス理論とか人工知能などの最先端の科学の現場で活躍していたのだろうか…
いや、まあ知らないけど。


梅原猛の初期の著作集『隠された十字架』『地獄の思想』『哲学する心』

隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

地獄の思想―日本精神の一系譜 (中公文庫)

地獄の思想―日本精神の一系譜 (中公文庫)

哲学する心 (講談社学術文庫)

哲学する心 (講談社学術文庫)

などに、読後感は極めて近い。

『バスタブに乗った兄弟〜地球水没記』『漫画ルポ中年童貞』

オススメ度 40点
女の子の造形の悪趣味なことと言ったら…度 100点

バスタブに乗った兄弟~地球水没記~(1) (アクションコミックス)

バスタブに乗った兄弟~地球水没記~(1) (アクションコミックス)


Amazonで、ヘビーに本とか買っていると、アマゾンも「お前こんなん好きなんちゃうの?」みたいな感じで、自分の購入傾向にそって、いろいろ勧めてくる。
そんな中に『バスタブに乗った兄弟』というのがあった。

ディザスターもので、洪水なのか、なんなのかわからないけど、東京が水没し、海には人喰いサメがうようよ。
そんな中、バスタブを船がわりにして、漂流する引きこもりの兄と、特徴のない弟。

そんな彼らの、旅行記
とかいうんですけど、まあひどい。そもそも設定はともかく、世界観やその世界なりのリアリティが全くない。
そして登場人物は、ルックスもひどいし、行動もひどい。崇高な人や利他的な人がほとんどいない世界。
この人にとっては世界はこう見えているんだ。これがリアルなんだ。
まあ、今の日本を正しく投影しているのかもしれない。

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登場人物が食うおにぎりでさえ、汚そうに見える。

なんかよくわからないけど『ノアの箱舟』を題材に、中世で教条的な小説が作られたら、こんな感じの面白いのか面白くないのかよくわからない小説ができそうだ。とにかく、ストーリーで見せるわけでもなく、ディザスターもののリアリティを追求しているわけでもなく、とにかくロウアーな人たちのロウアーな行動の描写が続く。
この世は地獄か。
でも、僕だってこの世界に放り込まれたら、こんな風に行動してしまうだろうな。
水一杯、パン一切れを奪い合うような極限状況に陥ったら、醜い行動をとらないことは、とても難しいと思う。

* * *

しかし、この絵柄はどこかでみたことがある…この逆撫でするような絵柄…
とおもって、過去のアーカイブをあさってみると『中年童貞』の作画担当の人だった。

厳密にいうと、この漫画と中年童貞では、ペンネームを変えているらしいが、こんな不愉快な絵柄、忘れられるわけもなく。

『中年童貞』は、「介護の現場に、コミュニケーションのとれないメチャやばい男性がおるぞー!」という本なのだが、
この童貞描写の、迫力がすごい。
フィクションなのに、なんか胸にせまるものがある漫画だった。
これはこれで、彼らは僕と地続きの世界に生きているけれども、ある種の極限状況にさらされているのは間違いない。
社会人としての経験がない(だけでなく、おそらくそうした人物は学生時代にも孤立していて、社会やコミュニティの恩恵をうけた経験がない)人は、
利他的な行動に対する成功体験がないのだろうと思う。
だから、利他的な行動を取れない。
そんな人が、対人援助職なおかつ女性の濃厚なコミュニケーションを所与のものとしている介護現場に入ったら…確かに考えうる最悪の組み合わせだと思うよ。

『人生を変える、お金の使い方。』

オススメ度 80点

人生を変える、お金の使い方。

人生を変える、お金の使い方。

換言すれば、あなたが美しくお金を使っていれば、あなたの人生も美しくなるということ

けっこうためになる話だったが、今ひとつ立ち位置がわからなかった。

筆者は、大学の時に本代に1000万の資金を当時、1万冊の本を読破した。
膨大な読書体験から深い教養が蓄積され、それが創作の源泉となった。
こういう言は、「有り金は全部使え」というホリエモンのエピソードにも似ている。
https://halfboileddoc.hatenablog.com/entry/2019/08/10/070000
自分に投資する意味でのお金は惜しむな、という、仕事人の自己投資の勧奨部分が、だいたい半分。
でも、自分の年収分程度の貯蓄はしておかないと、人生攻められないよ、という実際的な教訓も。
「「貯金」はもっともお金のかかる趣味で、最も無駄な趣味でもある」という皮肉は確かにむべなるかな。

あとは、社会におけるお金の様々な意味について、雑駁な人生論。
・お金はブーメラン。戻ってきた時には必ず人脈と人望の増減が生じている
・恋愛や友情において、あなたが振り回される立場でなく、振り回す立場になりたければ、あなたが断る立場になればいい
・金払いのいいクライアントは、従業員たちから例外なくバカにされて舐められていた。
・利益がでると社内で山分けするような組織では、お金でしか人が動かなくなる。大きな利益が出た場合にお客さまに還元した方がたくさんのお金となって還ってくる。
経営コンサルタントとして痛感したのは、会社がちょっと儲かったくらいで社員の給料を上げるべきではない、ということ
・「お金の問題じゃない」と叫んでいる相手は、お金で静かになる。
・天国から地獄へ突き落とされれば、相手は酷く傷ついて恨むものだ。だが、地獄から天国に上げると、相手は大いに喜んで感謝する
・どれほどあなたが運を高めても、たった一人の詐欺師と関わったために人生を台無しにされることがある。「ラクに儲かるおいしい話」を運んできた人とは二度と会わない
・圧倒的実力を持ち、なおかつ少し負けておくと、嫉妬も恨みもかわずにうまくいく。

ハードな環境でビジネスをしてきた人の、人生訓が多分に含まれるので、結構ためになった。
特に、「安易に給料を上げるとあとで感謝もされない(むしろあとで下げなきゃいけない時に恨まれこそする)というのは、自分の「甘さ」も含めて自戒すべきだと思った。
(僕はすぐ職員に還元しようとして周りに止められてしまう人なのだ)
金で人をスポイルすることは簡単なのだろう。
資本論やピケティの言は、あくまで理論経済学なのであって、経済のリアルな現場では、被雇用者に資本を配分することは、うまくいかないようだ。
それとこれとは、別。ということなのだろうか。
確かにリスクを取らなくして高収入というのは難しい話だとは思う。

『たそがれたかこ』入江貴和

オススメ度 90点
Aiko師匠〜!!度 100点

なんか、これを読み始めた時、『34歳無職さん』と同じころだったように思う。

ひっそりと読み進んでいたが、完結したようで、この前最終巻を読んだ。

この二作を読んでいた頃は、自分の「ミッドライフ・クライシス」感バリバリのころとも重なっていて、どうにも共感せざるを得なかった。

歯車がうまく噛み合わなかった40代。
子供のことも家族のことも一寸先は闇、みたいなストーリーのリアリティに、ちんすこうが口の中の水分吸うレベルでテンションを吸い取られた記憶がある。
主人公は、離婚シングルマザーで、弁当屋の調理ユニットで働くイルカ似のメガネ女性。

子供が不登校になり、引きこもりになり、自傷癖ができて、拒食エピソード。
そんななか、若者が聴くような今時のロックバンドにラジオで惹きつけられ、はまってゆく。

音楽が人を癒す。
音楽が、人をつなぐ。
音楽にはそういう力があるよな。もちろん、演奏者として高みを目指すという根源的な目的でもいいけど、
人生の途中に音楽に出会って、これまでよりも濃密にかかわり、それなりに救済を受けた人、僕の周りでも何人かいる。

もちろん、40代のシングルマザーにシンデレラめいたハッピーエンドがあれば、嘘くさい。
そこはきちんしていて、どちらかというとリアルでほろ苦いエンディングなんだけども、一部救われるような描写もあり、なんだかほっとした。
貧困からさらに転落、みたいな底なしの不幸を描くことは『四丁目の夕日』みたいにすることもできるはずだから。

四丁目の夕日 (扶桑社コミックス)

四丁目の夕日 (扶桑社コミックス)


ドラマ化するんだったら、主人公は誰だろう。
できればAiko女史にやってほしいものだが、
多分Aikoの実年齢と主人公の年齢は同じくらいだけど、Aikoは見た目随分若いので、50代半ばになったらちょうどいい感じになると思う。
まあ、しないと思うし、あの人は音楽を操る側の人なので、ちょっとリアルにはならないと思う。

むしろ同じような設定の40代女性を主人公にして、今まで音楽全くやってこなかったけど、ある日歌ってみたらめちゃくちゃうまかった、みたいなドラマをAiko主演でやってほしいなあ。できればミュージカルで。
天才Aiko、後半生のキャリアのどこかで再びポリュラリティを得る作品が欲しいと思うのは僕だけだろうか。

ちなみにこちらは、「たそがれたかこ」が動だとすれば静。
何もなくなった毎日を淡々と過ごす。そんな中にも動きがあり…という作品。こちらも父方に引き取られた娘がいる。
設定としては「凪のお暇」に近いのかもしれない。
halfboileddoc.hatenablog.com

『麺の科学』山田昌治

オススメ度 100点
やばい度 100点

ちょっと前にネットで話題になったので、僕も買ってみた。
知的好奇心を最大限にぶん回したら、こうなるのか、という快作。

理科の授業だと思って理科実験室に入ったら、でんじろう先生のライブだった、みたいな読後感であった。

ブルーバックスで「麺の科学」という大きなタイトルだったから、麺に関しての総花的な知識を期待していた。
途中から、めちゃくちゃ粉に対するこだわりがでてきて、ん?となってくる。
そして繰り返される執拗な麺の食感に関するこだわりと試行錯誤。


デンプン・粉に対するこだわりが、とにかくすごい。
第4章:「科学の力でめんをおいしく」はすごい。
麺を茹でる時の差し水の効果と温度の検証、素麺を重曹入りの水でゆでると、中華のかん水の代わりになって歯ごたえがかわる。
しかも食感を、材料試験装置を用いて破断試験で「コシ」を定量化したり。
応用で、うどんを茹でる時にしらたきを一緒に茹でると食感が変わる。とか、
即席麺をどのタイミングでかき混ぜるか。とか。
スパゲッティの「アルデンテ」を検証するために、麺の断面をMRIで測定、とか。
麺の「香り」を評価するのに、ガスクロマトグラフィーで成分分析したり。
しかも、第5章では、繰り返した実験で、あかんやつ=NG集を紹介していたり。
 なんすかこの本は、ジャッキーチェンの映画ですか。

普通に期待される本の範疇をギリ超えて、クレイジーなほどに面白い。
オーケストラの楽譜に「大砲をぶっぱなせ」とか書いてあるようなもんだ(「1812年」)

”Blue Journey” 和田明 布川俊樹

オススメ度 100点
絶対31歳じゃないだろ度 100点

BLUE JOURNEY

BLUE JOURNEY

ジャズギタリストの布川俊樹さんは、私の住んでいる街福山にもよくやってきます。
そんな布川さんが、ある時若いボーカリストを連れてきたのだが、あまりのすごさにぶっとんだ。それが2年前。
ファーストアルバムもよかったが、今回は布川さんとがっちり組んでDuoでアルバムを作り。
レコ発ツアーをして、福山にも8月24日にやってきました。

まあ、すごいのよ、この人。表現も確かだけど、ジャズに必要なアドリブも、対応力もある。ユーモアもある。
歌もうまいしなあ。

stay tune - suchmos 和田 明の0号シリーズ。②

これ、サチモスの Stay Tuneを歌ってるやつですけれども、これでその実力の一端を推し量っていただければ幸いです。
で、和田さんギター弾き語りでもこのように全然できちゃうんだけど、ここに布川さんが絡むと、さらにいいバンドサウンドになる。
付かず離れずのいい距離感である時は完璧なバッキング、ある時にはソリストとして切り込み隊長。

アルバムそのものは、見た目軽い作りですが、いいですよ、これ。オススメ。
ジャズに限らず、Pops, R&Bの曲とかも入っているので、万人にオススメできます。

ぜひライブにも足運んでみてください。

『ホットケーキの神様たちに学ぶ』

割と力技度 80点
石窯ホットケーキ食べてみたい!度 100点

一冊通じて振り返ると、結構面白い本だった。
都内を中心に、ホットケーキをウリにしている店を総花的に取り上げ、後半30%くらいでは、とってつけたように(失礼)マーケティングの参考として総括している。

結果的には「HANAKO」的にホットケーキのお店の案内として利用することもできるし、マーケティングの業界事例研究としても役に立つ。
ま、後半については、別にビジネスモデルのバリエーションがあるわけでもないし、まあまあ苦しいかな。
それでも丁寧に店ごとの戦略性とか工夫などをまとめていたりもするので、前半を読んでから後半を読むと、マーケティングの人のものの見方の、まあお手本になるのではないかと思う。
逆に、マーケティング業界の人にとっては、後半の総括部分は、まあ平均的な総括ではないかと思う。
もしこのパートを読んで「目から鱗!」と思えるようでは先が思いやられる。

でも、ありふれた結論だけれども、これだけのフィールドワークから生み出された結論は、やっぱり重い。
ありふれた結論を腹の底から理解してきちんと動けたら、ビジネスは成功するのだから。

「どこにでもある定番がめちゃめちゃ美味しかったら、必ず売れます」

 文中にもでてきたこの言葉が、すべてを物語っていると言えよう。