半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ファイヤパンチ』藤本タツキ

ええと、なんか漫画読めます的な電子アプリの宣伝で、漫画の紹介されてるやつあるじゃないですか。
あれで、ちょっとおもしろいかなあと思ったので読んでみました。

うーん、陰惨。

ジャンプのブランドが冠されていたら、性奴隷的な話とかそういうドロドロしていたやつはないのかと思っていたけれども、そういうのありあり。

もう冒頭から、雪と氷に包まれた村に、再生能力をもつ少年が、自分の腕を自分で切り落として村人たちに食糧として提供している、描写から始めるわけで。

ディストピア描写のハードさでは、いままでみたことがないレベルかと。

私は「世界の終わり」という題材に過剰に惹かれてしまう癖*1がありまして、この話も、最終巻は急展開。

1〜2巻ずつくらいで、テーマというか、描きたい材料がちょっとずつ変わっていくのが、すごいと言えばすごいが、
おそらく読者としてはおいてけぼりにされ感がちょっとあるなあ、とは思いました。
いろいろ過剰でしかも複雑なのだが、それを過不足なく読者に届けるほどの説明力がないので*2
全3巻くらいの3つのお話くらいに薄めて分けたほうが売れたかもしれない。

雪、世界の終わり、という二題に関しては
少女終末旅行」という作品もある。*3

少女終末旅行 コミック 全6巻

少女終末旅行 コミック 全6巻

 これも、中盤からラストにかけての「世界の終わり」感が好きだったなあ。

*1:キーワードとして「世界の終わり」というのを打ち出したのは、村上春樹の『ハードボイルド・ワンダーランド』だと思う。0年代には「セカオワ」とか「セカイ系」というのも流行ったが、この辺は年代が違うので僕は乗り遅れている感あり。

*2:もっとも、そんな作家は稀有なことで、ハンターハンター富樫も、小説か、というくらいの文字コマで説明していたり、どうしても言葉が増える傾向にあるが、作者はそれをよしとしないのではないかと思う

*3:これはこのBlogをほぼ閉鎖していた一昨年くらいに読んだ

『教養として知っておきたい「民族」で読み解く世界史』宇山卓栄

これも、多分Kindleの日替わりセールで購入。

大人の教科書、みたいな本です。

血統・血脈によって人種が特徴づけられるが、国民は外的要因によって位置づけられる。民族はその中間に位置する。
民族、言語・文化・慣習などの社会的な特徴によって導き出される。

日本のような比較的均質性の高い集団にいると、民族について、あまり深く理解することは難しい。
僕も外国で生活したことはないので、こういうことについて、肌感覚はない。
こういう総花的な民族紹介は、世界史の教科書のようではあるが、知識の確認にはなる。

教科書にはない話として、韓国の全羅道の差別の話、ドイツとイタリアの国民性の違い、中国と違ってヨーロッパでは統一した王朝が形成されにくい理由、
ハンス・ギュンターと、ノルディキストの話(優生学の話)
また、モンゴロイドの西進で、東ヨーロッパでは混血がすすんでいる話、バスク人クロマニヨン人の末裔とする説が有力、という話なども
面白い。

欧米人の間では、北欧に対する憧れのようなものがあります。
金髪・碧眼のいわゆるブロンディズムを体現した美しい容姿……
……しかし、北欧に行けばわかりますが、ただの田舎です。

あー、身も蓋もない。

西野カナが活動休止……

news.livedoor.com

西野カナ、結局個人的にはあまりハマることなく活動休止かあ*1
TwitterSNS, 5chなどでは
西野カナ、ついに震えがとまる」的な報道をされ、「震えが止まったと思ったら活動も休止か」と、口さがないことで。

それにしても、震えというと、僕はいつも「カルロス・トシキ&オメガトライブ」を思い出します。
元祖、「ふるえ」歌手というと、やはり彼だろう。


1986年 君は1000% カルロストシキ オメガトライブ

君は1000%…1986年というと33年前なのか……
 大体の若い子に話が伝わらないはずだ……

*1:aikoとか好きな自分は、メロウな恋愛ソング、まあまあ親和性があるのだ

『オシャレな人って思われたい』峰なゆか

オシャレな人って思われたい!
心の叫びですな。
僕もオシャレな人って思われたいです。切実に。
「センスがある」って、金があるとか、権力がある、というよりも何よりも、モテに直結すると思わん?

ちょっと売れた女流漫画家が、オシャレにも一家言持ちたい!というのは、もうこれは宿痾のようなものなんだと思う。

安野モヨコ美人画

美人画報 (講談社文庫)

美人画報 (講談社文庫)

とか、

東村アキコ 即席美人の作り方

即席ビジンのつくりかた (ワイドKC)

即席ビジンのつくりかた (ワイドKC)

とか。

他にもおおたうにの著作とか、なんやかやオシャレにフォーカスを当てたやつはいくつかある。
少女漫画は、まあ男性を対象とする漫画以上に服とかに気を遣う必要は、まああるだろうし、そういう素養も磨かれるんでしょうね。
司馬遼太郎が「街道をゆく」書くみたいに、少女漫画は自分の取り入れた体系化された知識を披露し、功成り名遂げた自分のセレブっぷりをちょっと自慢したい、というのが、動機ではないかとは思ってる。

もとAV女優の峰なゆか、自虐と自意識のバランスの空気を読むのにたけていて(むしろ、読みすぎているとは思うが)、そのあたり、読者がイラッとしないところに着地させているのはさすがだけれど、大体の主張は「アラサーちゃん」と一緒で(そりゃそうだ)、全部読んでる自分にとっては、あまり新鮮味がなかったのは事実です。

人生の勝算 前田裕二

人生の勝算 (NewsPicks Book)

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人生の勝算 (NewsPicks Book)

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なんか最近Newspicksの本ばっかり取り上げてますけど、去年の秋頃にマイブームがあったのです。
それに、本アホほど買っていたら、Newspicks売れ筋だから紹介されるんですよね。しゃあない。
そもそもは、箕輪さんと見城さんの本で、コロリとやられてもいます。
Newspicks、裏切らないね。

前田裕二氏は、去年石原さとみとの恋愛が報じられた人。へー(棒読み)。
Showroomというライヴ配信アプリを作っている会社の人。

という、前情報で読み始めたわけですけども。
いやいや驚いた。この人もすごいな*1

幼少期のストリートミュージシャンをしている時の原体験、
スナックに潜む、永続するコミュニティの本質
モノ消費からヒト消費へ。
完成されたエンターテイメントではなく、余白、もしくは常連の存在、観客に「自分が補完しなければ」という感情を抱かせることが必要。
スナックで起きる「トラブル」さえも、コミュニティの深まりや永続性のためには必要なことであるという視点。
ファンビジネスの4象限などは、自分の今やっていることのプレゼンでもあるのだが、非常に示唆に富む。

後半の株式のブローカー時代のエピソードから、今の会社を立ち上げるまでの回顧録では、
「人に好かれることの意味」「一人の力では地球は動かせない」ことに気付かされるまで。思いやりとは「他者」の目をもつこと。
実際に会社経営で経験したことが語られる。サラリーマン時代の鬼エピソード、そして人生の「選択と集中」。

よくビジネス書では、人に好かれる能力を磨きなさいと説かれていますが、僕は逆だと思っています。人を好きになる能力の方が、よっぽど大事だと思います

別に自己啓発本ではないのだが、まあ読んだらやたらアドレナリンがでますね。結構オススメだと思います。

地方都市で、ジャズ文化、というまあ金にならないコンテンツに、僕も微妙に関わっているわけですけれども、こういうコンセプトを何か活かせないだろうか、と思う。スナック文化と、地方ジャズ文化(特にジャムセッションを主戦場とする店)。実は共通点は結構あると思うんだな。

ということで、早速Showroom、ダウンロードしては見ましたが、うーん………
今の自分の生活にはあまりクロスしないなあ……

*1:考えてみれば30ソコソコでスタートアップをしている時点で、そいつはバケモノ級にすごいのだ。当たり前だ

『ゴッドタン キス我慢選手権 The Movie 2 サイキック・ラブ』(Amazon Prime)

Amazon Prime ビデオを実は昨年からぼちぼち観ている。面白いけど、時間をアホのように吸い取るので、ねー。

川島省吾こと劇団ひとりの、超絶ひとり舞台。
なんかよくわからないけど、劇団ひとりに、ある程度自由裁量を認めて、アドリブの当意即妙な返しをさせつつ、ストーリーをすすめてゆく。
まあTVバラエティのキス我慢選手権の趣向を、ありえないところまで延長させたような感じ。

ラストで、劇団ひとりが、ゲームのルールを逆手にとって大どんでん返しを目論むところは圧巻。
あちこち腹抱えて笑った。
劇団ひとり、すごいなあ。

なお、引退したAV女優、上原亜衣さんがヒロイン役。
お顔はゼロ年代のまがうことない現代の女性なのに体型は若干昭和感のある量感のある下半身。

いい、いいよ!上原亜衣
君は多くの男を救った女神さまなんじゃ〜!

ともあれ、
全体に横溢する「学芸会」感に、彼女の演技もかなりはまっていたと思う。
(むしろうまく見えた)

ベタ(予定調和)と破調、そのバランスがよくとれていた良作だと思う。

『保守と大東亜戦争』中島岳志

Kindle版:

我々は冷戦終了後のポストモダンからざっくりと過去を総括している。

司馬遼太郎が「鬼胎の時代」と呼んだ、満州事変から敗戦までの戦前昭和史。
単語を羅列したら、
治安維持法、右翼の台頭、軍部の台頭。
やがて 満州事変、支那事変、そして戦時体制から大政翼賛会、そして太平洋戦争、敗戦。

今の時代の我々は、敗戦までの昭和軍部の暴走は「右翼、愛国団体、保守反動」にあるとざっくりと理解している。

しかし、もう少し丁寧に細かく時代を読み解けば、満州事変、支那事変と戦争を拡大させていったのは一種の革新勢力。
2・26事件の青年将校の思想的淵源となった北一輝はおそらく、その頃のインテリゲンチャの中では革新勢力。
「保守反動」と呼ばれた知識層はむしろ戦争反対だったことを、我々はもうちょっと理解しておく必要があるよね、

………というのがこの本の背景。

* * *

「保守反動」というのはそもそもが漸進主義であり、イノベーションに対して懐疑的であり、人間社会に普遍的にある価値観を重視する。
それは、ある局面においては停滞の原動力になるかもしれないし*1ある局面においては行き過ぎた過度の社会変革の抑止力にもなりうる。

近代文明は「持てる国」においてはジキルとなって現れる一方、「持たざる国」ではハイドとなって現れる(竹山道雄

近代文明を盲目的に受け入れた日本、帝国主義植民地主義に乗り遅れまいと拡大政策をとる軍部、に異を唱えたのは、左翼(マルクス主義者)ではなく、戦前右翼(保守反動勢力)であったことは、本当は忘れてはいけないとは思う。左翼勢力はコミンテルンの指導のもとむしろ火に油を注いだ。

敗戦で、機をみるに敏な軍国主義者が、一斉に社会主義・左翼にふれたため、保守反動陣営は、ここでも冷や飯を食った。
戦争中に声高に「国体」を叫んだ人間と、戦後に「平和」を叫ぶ人間が同根の存在である。
保守反動はその両者から距離をとることを言論の核に据えた。だからこそ、戦後も冷や飯を食うことになる。

おまけに、戦中は戦争に反対していたのに、右翼=戦争礼賛と勝手に一緒くたにされた。
でも自衛のための戦争そのものを否定はできない(ここが戦後左翼とは違うところ)。
戦没者への慰霊や畏敬は、むしろ右翼の保守反動勢力(「ビルマの竪琴」の竹山道雄)の手でなされていることは我々は覚えておかなければ、という話。

保守反動史観(この本はそこまでベッタリではないが、共感度は高い)に添って世界を見直すと、興味深い事実がいろいろ出てくる。

統制派の軍閥も、皇道派青年将校も、戦後民主主義も、絶対的正義をかかげることで自己への立場を獲得しようとする「粗雑な心理」の持ち主であると、保守反動勢力は規定する。戦後の左翼学生の「攻撃性」(政治的に天分のある若いリーダーたちは、ともするとはなはだしい権謀術数に奔る。「小さなヒットラー」のように振る舞う)は、歴史を振り返ってうなづけるところ。マルクスにかぶれていた人間が、どうやってマルクス主義を手放したのか、その思想転換をきちんと語るものは、ほとんどいなかった。


ただ、保守反動勢力って、普段地味なやつで、飲み会とかで騒いでいるやつを尻目に、もくもくと後片付けをしていたり、潰れたやつを介抱しているようなやつなんだな、と思った。そういう人に口を開かせても、まあアジテーションはしないよね。誰かを煽動したりはしない。
だからこその「反動」勢力なんだろう、とは思う。

かといって、保守反動が、いい、とかそういうことは僕はおもわない。
でも、例えば「諸君」「SAPIO「Will」を読んでも、そんなに良質な言辞に出会ったりもしない*2。難しいな、この話。まとめきらない。

橘玲氏の「朝日ぎらい」には、その逆で「リベラル」という言葉と、その変遷が浮き彫りにされていた。

戦後の教養主義もすたれて久しく今はすべての価値基軸がフラットになっている。
日本の人間社会のオピニオンなんかどうでもよくて、AI、IoT時代にどう立ち向かうか、とかだもの。

でも、保守反動勢力の身の処し方は、歴史の教訓になりうる話ではある。

*1:ラッダイト運動!

*2:むしろネトウヨといわれる人たちの好みそうな、勇ましい右翼記事が並ぶ