半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

物男 [book][comic]

物男 1

物男 1

なんじゃこれ。
久しぶりにいろんな意味で唖然とする作品をみた。

物語は現代日本だが、「物男」なる、物品の肩代わりをする賤業集団がいて、主人公はラブホテルのベッド役をやっている童貞男子。
……もうのその時点で設定がよくわからないのだけれども、そこから無理矢理に物語がはじまったりするのだけれども。

で、時事ネタなのか大塚家具を模した「大角家具」っていうのがでてきたりして、そこのデザイン家具の素材として、物男が採用されて、でも椅子の格好するのには、勃起や射精がネックになって……

という、改めて書くとくだらないとしかいいようがないのだが、物語って恐ろしいもので、そんな設定でも話がすすめば読み進んでしまうものなのだ。

物男 3

物男 3

デザインコンペで勝ったりしていた2巻まではともかく、急展開をむかえるのはついこの前出た3巻。
なんだかよくわからないうちに、SFっぽい展開になり、星間旅行をさせられてしまう主人公。そしてよくわからないうちに物語は終わる。

なんだこりゃ。
ほんと……なんだこりゃ。んー?
いい意味でクレイジーさと、オナニー感あふれる世界観の同居。
最後は、なんかものすごい大きい世界愛的な感じを匂わせて作品は終わる。
(でもまあこれって、射精後の『賢者タイム』的な感覚に、きわめて近いような気もする)

この作品って、童貞男子(男はみんな元童貞男子なので、男子は全員該当するわけだが)なら共感できるようなリビドーを前提としているわけですが、サブカル女子とかには、この作品は一体どのように受容されるんだろうか。
陰茎を持たない人にとっては、この作品はどう受け止められるんだろうか?
単純に「気持ち悪い」、なんだろうな。エヴァ映画版のラストみたいに。

税金恐怖政治が資産家層を追い詰める(幻冬舎) 副島隆文

面白いことに、これは同じ現象を全く逆の視点からみている本である。ここでは、税務を「タックス・テロリズム」と断じ、「富裕層への課税強化宣言」を行い、資産家の資産はガラス張りだ、と嘆く。
「公務員は利益を産まない 「利益を産んではいけない」と教育される、公僕という建前をとって、税務署員のやっていることは、収奪そのものではないか。相続税の規制強化も進んでいるし、この国、といわずすべての税務職員は、働いて正当に得た対価を、収奪するひどいやつらだ、と。
まあ、確かに高額所得者の税金は高いから、その言い分はわからんでもないが、しかし30年前にくらべると、所得税は結構さがっているからいいじゃないかと思ったりはするのだ。
挙句の果てにはこの先生、現金でタンス預金していて、泥棒にとられてしまったのだとか。
その恥エピソードを発表するのはある種の立派さではあるが、国家に収奪されるか、治安紊乱者に収奪されるかだったら、国家に収奪されたらいいじゃないか、と思ったりもする。
この本では「10億以上の富裕層は、とっくに資産を海外に逃がしているが、5億以下の小金持ちは逃げ場がない」ということについて警鐘を鳴らしている。

一方、「Facebook節税術」では、そういう海外に離脱した人たちが、しみじみと「もうでも俺たちは日本には戻れないんだよねえ…」という嘆息を紹介してた。国税庁ににらまれている富裕資産者は、もう国内に定住することはできないのだとか。「やっぱり私は税金を納めるなら日本に納めたいし、死ぬなら日本で死にたいよなあ」ということを書いていた。私もそう思う。

もちろん、納めた税金は有意義には使ってほしいと思う。それとこれとは全く別の話だ。

[book]Facebookを使った節税術

Facebookで節税する方法;生活費を「ほぼゼロ」にする驚異のFB活用術

Facebookで節税する方法;生活費を「ほぼゼロ」にする驚異のFB活用術

経営者、もしくは個人事業主は、仕事の範囲が多岐に渡る。どこまで経費として認めるか、というのは、税理士事務所的にも解釈がまちまち。税理士事務所としても、OKと明言してしまって税務調査で税務署に怒られたくはない。やはり経費として認めるには「ストーリー」が必要。Facebookで個人ログをとっておくと、ストーリーの実証にしやすいですよ。と、そういう内容。
その他、海外への資産逃避とか、事業計画やキャピタルフライトの話とかが、裏話・座談会のように話されていて面白かった。

ちょっと小金をもっている人の中でよくある財テクとしてHSBC香港上海銀行)に個人口座を作って、現金を持ち出して海外逃避資産を作る、なんてのがまことしやかにささやかれているけれども、これなんて国税庁の職員にしてみれば、マルバレらしい。なんとなれば、HSBCの入っているビルの二階には日本国税庁の出張所がある。馬鹿だよねー。みたいな話。
ではなぜ取り締まらないかというと、いちいちきりがないから。タイミングを取り計らっているらしいよ。
警察にインターポールがあるように、現在、世界各国の税務署同士は情報交換をしているので、資産はガラス張りなんだとか。

[comic]小田原ドラゴン『ロボニートみつお』

あまり賛意が得られないのでありますが、小田原ドラゴンの一連の作品群がとても好きなんです。
どちらかというと下から目線。労働者階層、ですらないニート的な視点からみえる、おかしくも悲しい現代社会。
山野一『四丁目の夕日』に近い毒をもった世界なのに、変にファンシーな絵柄。

そんな小田原ドラゴンの作品を楽しみにヤンマガ、ことヤングマガジンを見ています。

しかし『チェリーナイツ』は大好きで、特に「バンギャ編」に涙した私ですが、世間的な評価はあまり、というか全然高くありません。
チェリーナイツ続編である『ワイルドチェリーナイツ』、これは、江藤が宇宙戦士となり戦ったり作者のマンション購入の経験を踏まえたエピソードが語られたりしつつ本当に正しい餃子のタレを探しに宇宙の果てまで探しに行くという「間違ったセカイ系」の話でありました。しかし 2017年5月現在、Kindle化もされていません。さらにその続編、『チェリーナイツR』「田村ワレ」こと風俗大好きの田村が、金玉を覆う男性用ブラジャー会社「タマブラジャー」の社長になっている話なんですが、Rに至っては単行本化さえされていない始末。
商業的には苦戦を強いられています。
まとめて読むには向いていないんですかね。


こんな感じで身も蓋もないのが持ち味です。


そんな小田原先生の新作「ロボニートみつお」はこの度完結し、めでたくKindleでも出版されました。良かった。

町外れの研究所で博士が作り出したロボが深夜目覚め…
という冒頭で始まるのだが、このロボは働きたくないロボ、ニートロボなのである。
揺籃期、博士との怠惰なニート生活を経て、博士は死んでしまい、みつおは、街を彷徨うことになる。
いろいろな濃い人々と出会う。いってみれば地獄めぐりに近いその道行きは、キャラの濃さと脱力も含めて、現代版『ライ麦畑』のテイストがある。
主人公はホールデン・コーンフィールド同様に、ただただ流される。しかし明るく屈託がない。

ロボニートみつおには、前出の「チェリーナイツ」の江藤と田中もちょっと客演してくれる。
読後感はあくまで虚しく、そしてなんともいえない悲しさが残る。そういうところも少し「ライ麦畑」です。

私はニート的な生活とは無縁で、社会的にはむしろ真逆と言ってもいいのであるが、作中のニートに共感することハンパないのはなぜでしょう。

個人的には

ネットを見ること風のごとく
親の説教を聞き流すこと林の如し
フィギュアを買うこと火の如く
働かざること山の如し

の、ニート風林火山の皆様が好きだったですね。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

* * *

ちなみに前述した暗黒下町物語『四丁目の夕日』はトラウマ級の後味の悪さです。
疲れたり、死んじゃいたいような気分の時は僕はこれを読みます。まだましだって思うから。

四丁目の夕日 (扶桑社コミックス)

四丁目の夕日 (扶桑社コミックス)

でも山野一は妻ねこぢると共作し、ねこぢる自死のあと再婚、今は双子の娘を描いたほのぼの育児マンガを発表してらっしゃる(絵柄はねこぢる)。人生何があるのかわからないものですよ。

『大本営発表』辻田真佐憲

そういや、かつて「ものぐさ精神分析」で名をなした岸田秀先生が、自分の精神分析の原点は、太平洋戦争の戦史を読み解きながら、涙し、怒り、どうしてこんな愚行をおかしたのだろうと疑問を感じたことだ、と語っていた。
「個体発生は系統発生を繰り返す」と少し似ているのだが、岸田学説のおもしろさは『国家と個人の行動様式は同じ手法でアナライズ(精神分析)できる』と仮定し、それを実際にアナライズしちゃって彼の一連の作品群ができた。あんまりにも知的啓発力が強かった(おもしろかった)ために、その手法の正当性はさておき、時代の寵児となり、うやむやになってしまったが、そう氏に行動せしめた原点が、昭和軍部であり大本営発表にある。また司馬遼太郎も、繰り返し、昭和軍部の奇胎性をあげつらう。

その昭和軍部の無茶苦茶ぶりの代表とされる、「大本営発表」についての考察が本書だ。

まあ大方は、現代の視点で振り返れば、検証するまでもなく、無茶苦茶なのであるが、ただ、成立の歴史的な経緯などをみると、意外と知らないことも多かった。
例えば、大本営発表エスカレートした原因には海軍と陸軍の競り合いがあったこと。東条英機がまあまあ話せる陸軍の報道部長を、政敵の応援演説に行ったって理由で更迭。新任の部長はあがり症のめちゃくちゃ口下手な男だったため、『海軍の発表はいいのに陸軍はね…』みたいになっちゃって、原稿を作るスタッフが、美辞麗句を入れて、原稿の段階で艶を出そうと涙ぐましい努力をしたらしい。それが、その後の事実よりは形容詞などの重視につながったとか。陸軍の不適正人事を弥縫しようとしたところに蹉跌があったというわけ。

 それから、大本営発表は、開戦当初は比較的正確な発表をしていたんだって。それを、当初は新聞社の方が、まだ占領していない都市を占領したように フライング報道をしていた。それを国民の士気を下げないため黙認、とかしていたらしい。ようするに正確な情報を上げない風潮のきっかけを作ったのは報道側だそうで。
 それがミッドウェー海戦の惨敗以来、逆に振れ、負けをごまかすために積極的に嘘をつくようになる。美辞麗句と、被害の過小評価・戦果の過大評価で、現実との解離がおこるさまは、本当におそろしく、情けない歴史である。
 天皇陛下もそのへんはわかっていて「そういえばサラトガが沈むのは4度目じゃないか」と侍従に漏らしたとか。
 ちなみに「玉砕」という表現は1944年の半ば、一瞬使われただけで、意外に定番化しなかったそうだ(批判が多かったらしい)。

 私も、岸田秀なみに、腹の底から怒りが湧いてきたから、みんなも読んでみたらいいんじゃないかな。
 新書にありがちな感じで、最後は「まあねえこういう昔の話だとみんな思っていますけど、今の政府と報道のあり方とかも、みなさんも考えてみたらいいんじゃないでしょうか?」みたいな問題提起で終わってます。まあ、そうですけど、ちょっとあざとい。

『刻刻』堀尾省太

刻刻 コミック 1-8巻セット (モ-ニングKC)

刻刻 コミック 1-8巻セット (モ-ニングKC)

Facebookとかやっていると、「漫画が無料で読める!」みたいなアプリの宣伝がよくありますね。そこで割とおもしろげな漫画が取り上げられてて、だからまあKindleで読んでしまう。そうすると、なんか、一見目を惹くどぎつい漫画ばかりが増えてゆくわけです。割とわかりやすい展開ですよね。
そういう漫画ばかり読んでいると、購入傾向からの「Amazonのオススメ」というリストも、そんなどぎつい漫画ばっかりになるのな。悪循環です。

『村祀り』『死囚獄』『ギフト』『生贄投票』『監禁嬢』『奈落の羊』『死役所』『蝶獣戯譚』…悪貨は良貨を駆逐する…とまでいうと言い過ぎであるが、共通点は屋台のジャンクフードのように、読み手をぱっと惹きつけはするけど、それ以降の展開力にいささか難があり、今ひとつ深みにかけること。
 そういう読み味の連続にやや辟易としていました。
 なんかね、読めば読むほど頭が悪くなっていく感じがあるんです。
 あ、『死役所』は面白かったですよ。

しかし『ゴールデンゴールド堀尾省太はかなり面白いなあと思いました。なにより舞台となっている向島〜備後地区が地元なので、そういう意味でもぐっと来た。やっぱり地元びいき的なものってありますわな。
 冒頭のシーンのアニメイト福山駅前の元トポスのビルのアニメイトや!僕がよくいくカラオケの建物や!とか、そういうのもちょっと嬉しかったんですけれども。

で、堀尾省太出世作*1

寄生獣』の岩明均、『アイアムアヒーロー』の花沢健吾絶賛!

という釣り文句に惹かれて *2、『刻刻』を読んでみたんですが、面白かった。
うーん、なんというか、先程の作品群と比べ「読めば読むほど頭がよくなっていく」感じはしました。

 時間を止め、その中で活動できる能力をもつ一族と、別の集団と、その戦いと言うかなんというか。
 そういう設定だと、何度も時間をとめたり戻したり、みたいに、プロットの中で能力を使うのかなあと思っていたら、そうではなくて。
 そういう設定の中でダレもせずストーリーがぐいぐい動いて、一気に読ませられてしまいました。ものすごく完成度が高く、きっちりしています。「ライオン仮面」的な要素 *3全くなし。 

 連載時にはアンテナにひっかかっていなかったのが悔やまれます。まあ、モーニング・ツーだもんなあ。
 最初の印象では、第一巻の序盤のところだけ、やや展開が早くて不親切かな?と思いましたが、そのあと十分没入できたので、別にいいんだと思った。「?」を残しながらストーリをすすめるのもテクニックですよね。

*1:というか、そんなに出世してないのでなんですけれども、

*2:アイアムアヒーローの終わり方で若干「…」となってしまったので、この釣り文句は今現在相対的にやや価値が減弱しているようには思うが

*3:どらえもんの漫画中漫画で、フニャコフニャ夫先生は締め切りに追われるあまりストーリーなんか無視してでたとこ勝負で毎週切り抜けている、という設定

カレー沢薫という人

最近、僕のKindleの中に、カレー沢薫さんの作品が微妙に増えてきた。

きっかけは、なんかのキュレーションサイトで。(Cakesだったっけ?)「ブスの本懐」という、キャッチーなタイトルの本が取り上げられていたこと。
コラムの、淡々とした語り口の中に挟まれる面白さと毒が、妙に印象的だったのを覚えていた。
「ブスの本懐」はその頃Kindle化されていなかったので、まず、『負ける技術』と『クレムリン』を買って読んだ。

『負ける技術』

負ける技術 (講談社文庫)

負ける技術 (講談社文庫)

カレー沢氏の日々の生活コラム。
このコラムでも、通底にあるのは自分のブスぶりに対する冷静さ、語彙の豊富さ。
なんてったって、著者の自画像は「陰毛」なのだから。
その自己評価というか「こじらせ」というかは、かなりのところまで到達していると言える。
しかしそんなに手を変え品をかえ自虐的な自分語りができるなんて、なんて語彙が豊穣なのだろう!
結構量もあって、割とお得な本であります。

一方氏の本業であろう、漫画。

クレムリン

確かにモーニングで見たことがあったが、読まずに飛ばしていた漫画であった。
リズムやツッコミなどは一定のクオリティがあるし、ストーリーがつながる4コマとしては飽きさせない。
ローテンションのままダラダラと続く漫画である。いかにも平成の漫画という感じだ。
結構面白かったんだが、二巻まで一気に読んでしまおう、というふうにはならず、そのままにしている。
多分、猫は好きだが、自分は猫アレルギーなのであまり感情移入が出来ないからかもしれない。

やりへん

というわけで、カレー沢薫さんは、語彙力はあるが、画力はほぼゼロの、コラムのような4コマのようなフィールドの人で『漫画家ではない』と認識していた。
だが、この漫画を読んで全然印象がかわった。
コマ割も普通の漫画ですし、絵も、そりゃめちゃうまいとは言わないが(特に柔らかいもの、例えば女体の動きとか、そういうものだと、お世辞にもうまいとは言えない。でも『カイジ』の人よりは上手いと思う)漫画としては全く成立するレベル。
ストーリーやキャラクターは破天荒で、リアリティはないが、まあ面白い。
コラムと、『クレムリン』から推量していた作者の力量を大幅に上回った。

仕事のできる同僚が、カラオケに一緒にいったらやたらうまかった、みたいな感じだ。

アンモラル・カスタマイズZ

アンモラル・カスタマイズZ

アンモラル・カスタマイズZ

なるほど。多分、作者としては成長途上で、「クレムリン」から「やりへん」の間をつなぐ存在なんだろう。
絵はやっぱり下手で、視線がところどころ変だったり、デッサンはすごく狂っていたりする。
けど、ストーリーはなかなか共感をさそうものだった(ビルドゥングスロマンになっているのがよかったのだと思う)。
やはり極端な設定の中で、キャラを動かすのは、作風なのだろう。

「ブスの本懐」

ブスの本懐

ブスの本懐

かなり面白い本。
『負ける技術』と基本的には変わらない。
ただそれはマンネリというよりは、むしろ安定の面白さ、と形容してもいいと思われる。
読んで面白いのだが、作者も書いているように、結論めいたものもないし、後に何も残らない。
でも、破壊力のあるツッコミフレーズにハイライトをつけていくと、20−30個くらいになったので、多分微妙に自分の文体や会話でのフレージングに影響していると思う。

というわけで、カレー沢薫、面白いです。
コラムにおける毒をもったフレーズの貫通力はナンシー関のようであるし、メジャー誌の中でぞんざいに扱われる画力軽視のギャグマンガという意味では「チェリーナイツ」の小田原ドラゴン先生のようでもある。みなさんも是非一度ふれてみてください。